JR東が変動運賃制を検討する理由はもう一つ、通勤ラッシュの緩和だ。実は鉄道会社にとっても通勤ラッシュの存在は非常に負担が大きい。というのも、鉄道の設備は運行のピークに合わせて設計しなければならないが、これら設備はラッシュ時間帯以外は遊休設備になるため、経営効率を下げることにつながってしまうからだ。
朝ラッシュ時間帯2分30秒間隔、日中5分間隔で走っている路線を例にとれば、ラッシュ時間帯の混雑を分散することで、終日5分間隔の運行が可能になれば、車両や人員はラッシュ時の半分で済むことになる。車庫用地も、信号設備や変電所の容量なども半分になる。鉄道会社にとってもラッシュを無くし、混雑を平準化するのは望ましいことなのである。
国の認可は? 私鉄や地下鉄はどうなる?
ただし、運賃の見直しは国の認可が必要なので時間がかかる。現在の鉄道の運賃制度は、上限金額を国が認可し、鉄道会社はその範囲内で運賃を設定することになっている。変動運賃制は割引だけではなく、値上げする時間帯も生じるため、運賃制度自体を見直さなくてはならない。こうした大規模な運賃制度の見直しは、通常であれば10年単位の時間を要する。
JR東日本の深澤社長は8月2日付東洋経済オンラインのインタビューで、検討期間は「1~2年というスパンで考えている」と答えているが、東京メトロや相模鉄道など相互直通運転を行っている路線にも影響するほか、東海道線・京浜東北線と並行する京急線や、中央線と並行する京王線など競合路線との兼ね合い、またSuicaやPASMOなどIC乗車券の技術的な対応等もあるため、一朝一夕にはいかない可能性がある。
当然、JR東日本以外にもこうした新たな運賃制度を導入しようという動きがあがるだろうから、各社一斉にタイミングを合わせて新制度に切り替えるべきという声も出てくるはずだ。かといって新制度の導入が遅れれば出血は続くことになる。広範にわたる議論を、短期間で取りまとめることができるのかが問われることになる。