「60歳定年で老後は悠々自適」夫の夢は実現できないことが判明

高橋さんの現在の生活費は1カ月で約43万円。会社からの給料が手取りで約46万円あり、黒字で暮らすことができていますが、毎月7万2000円の住宅ローンを払っているとはいえ夫婦2人でこの額はやや高めです。

仮に月の支出額が現状と同等レベルのまま定年後の生活に突入すると、60~64歳の無年金の5年間の生活費は、1年間で約516万円(43万円×12カ月)必要となります。つまり、5年間では2600万円近くになる。残りは400万円ちょっとです。

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こんな単純な計算を1回でもしていれば老後資金のほとんどがなくなってしまうことはわかるはずなのですが、高橋さんは、根拠はわかりませんが、その半分くらいで暮らしていけるだろうと高をくくっていたのでした。

では、65歳以降はどうなっていくでしょうか。高橋さんが65歳になると月に約22万円の年金受給が始まり、翌年からは妻も月約6万円弱の年金を受け取ります。計約28万円の年金から健康保険料や税金などが引かれ、世帯の年金の月額手取りは約25万円の見込み。

年金受給が始まる前に住宅ローンは完済する予定なので、月の生活費は7万円下がり、36万円ほどになるのですが、暮らし方を変えないと毎月11万円、年121万円ほどを老後資金から補塡ほてんしなくてはいけません。

また、老後の暮らしの中では、生活費のほかに冠婚葬祭や旅行費など、イレギュラーな支出も発生します。年間の補塡額は150万~200万円になっても不思議はありません。そうなると、少ない支出で見積もっても、65歳から年金受給が始まったにもかかわらず、68歳の時には老後資金が底をついてしまうおそれがあります。高橋さんのライフプラン表の試算は間違っていなかったのです。

夫婦2人だけで月43万円も使う家計をどう改善すればいいのか

高橋さん夫婦と一緒にシミュレーション結果を確認した結果、2人は今のままを続けていたらダメだと理解したようです。子供が独立した後も減ることがなかった生活費を見直していく必要があると話し合いをはじめました。

老後資金を長持ちさせるコツは3つあります。

① 定年を迎えるまでの収入を上げる
② 支出をコントロールして下げる
③ すぐに使わないお金を運用して金額が目減りすることを防ぐ

これら3つの方法をバランスよく実行していくことが有効です。

現状から将来を考え、支出の削減ばかりに目が向いている高橋さん夫婦ですが、急に支出を減らすことは、今までの習慣を変えることにもなりますから難しい場合があります。

定年まではまだ6年ありますから、その間に徐々に支出を落とし、あとは夫の体力的な問題がなければ、再雇用などで長く働くことを考えてもよいでしょう。60~64歳の就業率は68.8%と、年々増え続けています(「令和元年版高齢社会白書」より)。

アジアのシニア男性らがビジネスに関して話し合っている
写真=iStock.com/stockstudioX
※写真はイメージです

今後さらに60歳を過ぎても働くことが当たり前となり、高橋さんが60歳になるころには、もしかすると定年が65歳まで延びていたり、60歳以降の就業率が80%、90%になっていたりする可能性もあります。多くの人は収入を得て老後の生活費不足に対応しようとしているのですから、高橋さんも老後対策の選択肢のひとつとして持っていてもよいことでしょう。

また、「働いて収入を増やすだけ」「節約して支出を減らすだけ」と極端に考えず、5万円分を何とかしたいと思うなら、「3万円働いて収入を得て、2万円節約する」というやり方でもよいのです。このようなバランスも大切なことです。

このようなことを高橋さんにお伝えすると、高橋さん自身も、もう少し定年が近くなり、定年後の暮らしをより具体的に考えられるようになったら、再雇用についても調べてみようと思ったそうです。