「自国通貨建てで借金をしている限りインフレが加速しなければいつでも借金を大きくしても大丈夫」という理論(?)で、米国人のステファニー・ケルトン教授教授が提唱し、米民主党大統領候補だったサンダース上院議員や民主党左派の人たちが、経済政策のバックボーンとして据えていたものだ。

財源が無いのに大きな政府(=財政出動)を唱える人たちにとって「渡りに船」の理論だったからだ。なにせ「財源を考えないで何でもできる。バラマキをして国民の歓心を得ることができる」からだ。

しかし人気が高まったとしても奇策は奇策であり、異端は異端だ。フリーランチなど無い。この理論は「未来(M)は、もっと(M)大変(T)理論」(福本元毎日新聞論説委員)と揶揄やゆされるくらいで、私に言わせれば「トンデモ理論」もいいところだ。「未来はもっと大変」とは将来、財政破綻かハイパーインフレが起こるということ。

MMTは民間療法を妄信するのと同じ

「MMT理論なぞとんでもない」と思っているのは私だけではない。米国では主流派経済学者やFRB(連邦準備制度)などの政策当局はことごとくが反対している。

アラン・グリーンスパン(元FRB議長)、ローレンス・サマーズ(元米財務長官)、ケネス・ロゴフ(ハーバード大学教授)、オリヴィエ・ブランシャール(元IMFチーフエコノミスト)フランソワ・ビルロワドガロー〔フランス銀行(中銀)総裁〕、クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁・前IMF専務理事)等、錚々そうそうたる重鎮たちが「将来、制御しがたいインフレになる」と反対しているのだ。

サマーズ米元財務長官も米紙への寄稿で、「同理論は誤り」と指摘した上で、債務が一定の水準を超えれば超インフレにつながると警告したそうだ(2019年3月15日日本経済新聞夕刊「ウォール街 ラウンドアップ」)。また2019年3月13日にシカゴ大学が公表した調査結果では「米経済学者40人のうち1人もMMT賛同者はいなかった」そうでもある。

もちろん、権威ある人たちが言っているから「MMTはトンデモ理論だ」で、この論考を終わりにするつもりはない。列挙した見識ある人々の説よりも、実務経験も無く、経済論や金融論を系統立てて勉強したことも無く、ただ過去に本が売れて有名だというだけの理由で、その人の主張を妄信する日本人が多いことを危惧するのだ。科学的に検証された医学よりも民間療法を妄信するのと同じだからだ。

国も家計も、借りた金は返さなければならない

MMTは余りに常識に反している。MMT信者は「家計と国家は違う」と言うのだろうが、国家といえども借金は返さねばならない。返さなくてよいのならば、無税国家が成立する。法人税も消費税も所得税も徴収する必要が無い。歳出は借金で賄えばよい。

世界で貧国もなくなる。国民の80%が劣悪な貧困状態にあるハイチでさえも借金を無限にしまくって財政出動すれば国が豊かになる。しかし、そんなわけはないのだ。