※本稿は、橋爪大三郎『パワースピーチ入門』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
並々ならぬ覚悟で臨んだはずの「緊急事態宣言のスピーチ」だが
安倍首相は、二○二○年四月七日、緊急事態宣言を発するにあたり、午後六時から記者会見を行なった。まず、約二十五分におよぶスピーチをし、そのあと記者の質問に答えた。
コロナ危機で、各国のリーダーは指導力を問われた。ドイツのメルケル首相や韓国の文在寅大統領、台湾の蔡英文総統やニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相など、国民の信頼をかちえ評価を高めた指導者は多い。
安倍首相は、対策が出遅れ、指導力に疑問符がついた。「困窮世帯に三○万円」支給するとした補正予算案を、公明党などの要求で「全員に一○万円」支給にあわてて組み替えざるをえなくなり、面目をつぶした。各世帯に二枚ずつ配布する布製の「アベノマスク」も、不良品が多く配布も遅れて、さんざんな評判だ。コロナ危機で国民が信頼するリーダーの国際比較で最下位、という調査結果もある。
安倍首相は世論の評判を、人一倍気にしていたろう。それもあって、このスピーチには並々ならぬ覚悟で臨んだはずだ。
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以下、私はいろいろ駄目出しをする。それは、私がかりに首相のブレーンだったら、こういう点を注意しますよ、という意味である。とにかく、スピーチをよくしよう。そうすればそのぶん、政治がよくなる(順番が違うような気もするが、そういう側面が確かにある)。
「トピック・センテンス・メソッド」によるスピーチの組み立て
さて、このスピーチの原稿を誰が準備したのか知らないが、それを、大勢でチェックしたはずだ。いちおうプロの手が入っている。
たとえば、段落がいくつもあるが、それぞれの段落はまとまったことをのべていて、別な話はつぎの段落でのべる。いわゆる、「トピック・センテンス・メソッド」によっている(このメソッドのことは、木下是雄『理科系の作文技術』〔一九八一年、中公新書〕を参照してほしい)。