「自動運転は危ない」という声もあるが…

そのとき加藤は、自動運転についてどう感じたのだろうか。

「一口に自動運転と言っても、実はものすごく多様な技術の集合体なのです。ある環境下で、機械学習やロボット技術ができたといっても、それだけでは実験で終わってしまいます。本当に社会に実装しようと思うと、多くのプロセスを経て、品質を保証しなければなりません。いわゆる『エコシステム』として、全体の大きなシステムを形成する必要があります。ぼくは、そこが得意なのです」

2012年に帰国した加藤は、名古屋大学にポストを得て、翌年に大学院情報科学研究科の准教授となった。

「アメリカではあんなに流行っていたのに、日本では『自動運転は危ない』とか、『使えない』とか言われて、自動運転という言葉すら使わない、自動運転NG時代でした。それが嫌で、ぼくは“自動運転”と言っていたのですが、唯一サポートしてくれたのが、武田先生でした」

ティアフォーの代表取締役を務める武田一哉名古屋大学未来社会創造機構教授
筆者撮影
ティアフォーの代表取締役を務める武田一哉名古屋大学未来社会創造機構教授

名古屋大学未来社会創造機構教授で、ティアフォーの代表取締役も務める武田一哉は、「信号処理」が専門である。武田の研究する信号とは、人間の行動をカメラで撮影したり、マイクで録音したりしたデジタルデータを指す。その信号を処理することで、人間の状態を理解し、次の行動を予測することができるようになる。

3年かけて開発した技術を「無償」で公開

研究はJST(科学技術振興機構)のプロジェクトに採択され、武田だけでなく、機械工学や画像認識、コンピューターシステム、交通工学などの研究室もプロジェクトに加わった。研究が軌道に乗り始めた2011年、モビリティに関するイノベーションを起こそうと、名古屋大学に「グリーンモビリティ連携研究センター」が設立された。加藤も、センターでの研究に合流した。

加藤は名古屋大学で、自動運転のソフトウェア作りに取りかかった。開発期間は約3年である。ロボット用のソフトウェアとして世界規模で共同開発されてきたROS(Robot Operating System)とリナックスをベースに、完全に自律して車両を制御できるレベル4のシステムを制御できる自動運転のOS(オペレーティングシステム)「オートウェア」を、長崎大学、それに産業技術総合研究所の協力を得て完成させた。

「オートウェア」の実験車両
筆者撮影
「オートウェア」の実験車両

このあと加藤のとった行動が、その後のティアフォーの発展を支える基盤となる。加藤はオートウェアをオープンソース、つまりプログラムの設計図であるソースコードを無償で公開することにしたのだ。