太っ腹な対応に隠された狙い

自動運転の開発を進める研究機関はもちろん、メーカーも営利目的で自由に使ってよく、その対価は取らない。しかも、「オートウェアを使っている」と公表する義務もないし、ティアフォー側に報告する必要もない。オートウェアに付加価値をつけて特許を取るのも自由だ。なんとも太っ腹だが、その裏には当然のことながら思惑がある。

「開発した当初、ぼくらは学生を含めて数人で開発しているのに、グーグルは何100人もの専門知識を持ったエンジニアがいました。『よーい、ドン』でやっても負けるのに、すでにグーグルはかなり先行していました。唯一、追いつき追い越せる方法が、オープンソースだったのです。ぼくらにとって良かったのは、グーグルに対しては後発でしたが、オープンソースというカテゴリーの中では、ぼくらが先駆者でした。公開した瞬間に、みんなが『待ってました』と、使い出してくれたのです」

国内初の実験で「レベル4」をクリア

2015年には、オートウェアの提供に加え、オートウェアを使った完全自動運転システムを開発する「ティアフォー」を創業した。システムの熟度が増してきて、大学という組織の制約を離れたほうが、具体的な事業を進めやすくなったからだ。資本金の1000万円は、加藤や武田ら名古屋大の教員のほか、協力会社の社員など7人が持ち寄った。

2016年、加藤が東京大学大学院情報理工学系研究科准教授に転じると、ティアフォーの拠点は東京と名古屋の2カ所に拡大。翌2017年12月には愛知県内の一般公道で、遠隔制御型自動運転システムの実験を国内で初めて実施し、レベル4の無人運転に成功した。

究極の自動運転社会実現へのシナリオ

トヨタ関連会社やインテルも参加し業界団体に成長

ティアフォーは、オートウェアの開発を加速するため、2018年に「The Autoware Foundation」(以下、オートウェアファンデーション)を作り、ライセンスをオートウェアファンデーションに譲渡した。オートウェアファンデーションにはトヨタの関連会社をはじめ、海外からはインテルやアームなど半導体大手、ベロダインなどセンサーメーカーも参加し、加藤が代表理事に就任した。それまではティアフォーという一私企業の提供するソフトウェアだったが、オートウェアファンデーションに移行したことで、業界団体としての性格を持ち、いわゆるデファクトスタンダード(事実上の標準)としての採用を働き掛けている。

こうした活動が評価され、ティアフォーの累計資金調達額は123億円に上っている。