性急な緩和で経済の正常化を急がない都市のほうが、経済V字回復した
第二の報告書:感染対策と経済のトレードオフ
もう一つの報告書は、感染対策が経済に与える影響について分析した。2020年3月26日に、米連邦準備制度理事会(FRB)やマサチューセッツ工科大学(MIT)の専門家が発表したもので、タイトルは「パンデミックは経済を押し下げたが、公衆衛生はそうではなかった:1918年のインフルエンザの証拠」である。
この題が示す通り、スペイン・フル大流行の中で、米国43の都市が感染抑え込みのために取った措置のタイミング・期間・強度が、その後の経済状況にどう影響したかが明らかにされている。それらの措置は、現在日本を含めた多くの国が取っている措置と基本的に変わらない。安全な「社会的距離」を置く措置、すなわち、学校や劇場の閉鎖、公共の場での集まりの禁止、経済活動の制限などである。単純な比較はできないが、当時の措置と経済データの関係は、今日の各国政府が直面している「感染対策か経済再開か」を考える上で参考となる。
報告書によれば、感染対策に力を入れた都市は、中期(パンデミック後~1923年)の経済活動において強い回復度合いを示した。例えば、10日早く措置を取った都市は製造業雇用において5%高くなり、50日長く措置を続けた都市は同6.5%高くなった。
学校閉鎖を速やかに行ったセントルイスは、遅れて学校閉鎖したフィラデルフィアより経済回復度合いが大きかったのである。この結果から見る限り、感染対策と経済活動が二律背反になるとの主張は正しいとは言えない。パンデミック下の経済は通常の経済とは異なり、経済活動停止による影響よりもパンデミック自体による影響が大きいからだと言える。
感染対策を優先すべきということになる
スペイン・インフルエンザの大流行から100年後の今、私たちは、再び、感染対策と経済再開のどちらを優先するかという「厄介な問題」に直面した。右報告書の結論からは、感染対策を優先すべきということになる。
確かに、経済の正常化を急ぐ余り、「社会的距離」という制限措置が過早に緩和・解除されることになれば、終息に向かう感染が再び広がる可能性がある。また、スペイン・インフルエンザでは、第一の波が去った後に、第二、第三の波が押し寄せ、第二の波は第一の波より大きく、致死率も高かった。新型コロナウイルスについても、第二の波が起きる可能性は排除されない。感染症の持つ「不確実性」が消費者や企業家の心理を冷え込ませれば、影響は大きくなろう。
最終的にはワクチンや治療薬ができるまで、安全な「社会的距離」を置くべしとの主張は無視できない。しかし、ワクチンや治療薬の開発・製造・販売までには、最短でも12~18月はかかると言われる。もちろん、100年に一度と言われる「複合危機」であり、記録的スピードで開発される可能性もあるが、効果や副作用の実証試験には相当の時間を要する。この間、経済活動を制約し続けることには政治的に大きな異論が出る。