中国は人口14億人でありながら、新型コロナウイルスの死者数は数千人にとどまっている。それはなぜか。中国のデジタル技術事情に詳しい倉澤治雄氏は「中国は『超監視社会』と呼ばれるシステムを作ってきた。コロナとの戦いでは、有無を言わさぬ統制に加えて、デジタル技術の存在が力を発揮している」という――。

※本稿は、倉澤治雄『中国、科学技術覇権への野望-宇宙・原発・ファーウェイ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

すでに1億7600万台の監視カメラを配備済み

中国政府は現在、全国民14億人を1秒で特定できる監視システムの構築を進めている。都市部を中心に配備されている「天網てんもう」と農村部で村民が共同運用する「雪亮せつりょう」だ。「天網」は英語で「スカイネット」と呼ばれ、2020年には完成予定だ。すでに1億7600万台の顔認証機能付き監視カメラが配備され、2020年までに6億2600万台に増強するという。

圧倒的な数の監視カメラ
圧倒的な数の監視カメラ(撮影=倉澤治雄)

「天網」を構成するのは顔認証機能付きの監視カメラのほか、通信ネットワーク、それにスーパーコンピューターだ。ファーウェイ、ZTEをはじめ、中国の名だたるハイテク企業が参加する。

中国では身分証明書の携帯が義務付けられており、ベースとなるデータはすでに集約されている。今後5Gの普及が進み、4K8K映像の伝送が汎用化すれば、精度はさらに上がる。

ある専門家は「中国は圧倒的にデータ量が多く、ディープラーニングによる精度向上が容易だ」と語る。

 

「信用スコア」が低いと航空券のチケットさえ買えない

「天網」の名は「天網恢恢てんもうかいかい疎にして漏らさず」に由来しており、悪事を見逃さないという中国公安当局の強い意志を表している。

一方の「雪亮」は農村部の小さなコミュニティーでの監視システムである。自宅にモニターが置かれ、村に見慣れぬ車や人物が入ると通報するシステムだ。日本にかつて存在していた「隣組」のデジタル版と言ってもよい。

「顔認証」と並んで人々の行動に変化をもたらしつつあるのが「信用スコア」だ。いわば人間の格付けシステムで、SNSでの発信履歴、友人関係、購買履歴、ルール違反や犯罪歴などをもとにポイントが決められる。ポイントが高いと融資やデポジットで優遇措置があり、低いと鉄道や航空機のチケットさえ買えない。

アリババ・グループが始めた「芝麻ゴマ信用」のシェアが大きく、学歴や職業などの「身分特質」、支払い能力の「履行能力」、クレジット履歴などの「信用歴史」、交友関係などの「人脈関係」、消費の嗜好を表す「行為偏好」を独自のアルゴリズムで350点から950点の範囲で点数化する。場合によっては男女の交際や結婚相手の判断にも使われるという。中国の友人に聞くと普及度や利用度はそれほど高くないが、海外メディアは頻繁に取り上げている。