中国では、現在約30万人が宇宙開発に携わっている。目標は2030年代に米国・ロシアと並ぶ「宇宙強国」になることだ。科学ジャーナリストの倉澤治雄氏は「中国と米国の間で『第二のスペース・レース』が始まっている」という――。

※本稿は、倉澤治雄『中国、科学技術覇権への野望 宇宙・原発・ファーウェイ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

衛星と地球
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「米国はNASAを本気で潰す気かもしれない」

栄光のNASAが今、存亡の危機に立たされている。ペンス副大統領は2019年3月、自ら主宰する国家宇宙会議でNASAを完膚なきまでに批判した。ジム・ブライデンスタインNASA長官の面前でペンス副大統領は、まず遅々として開発が進まない巨大ロケット、スペース・ローンチ・システム(SLS)にかみついた。

アポロ計画がわずか8年で達成されたことを引き合いに、「SLSがスタートして18年、コストは膨れ上がり、期限は何度も先送りされ、月面着陸は2028年まで延びてしまった」と指摘、「NASAの戦略は右往左往し、明確な方向性、焦点、ミッションを失った」と痛烈に批判した。

その上で「もしNASAが5年以内に有人月面着陸を実現できなければ、変えるべきはミッションではなくNASAそのものだ」と最後通牒を突き付けた。

事実トランプ政権は「宇宙統合軍」の創設に伴って、国防総省内に「宇宙開発庁(SpaceDevelopment Agency)」を設置、宇宙関連の機器開発や調達を担わせる決定を行った。日本のある専門家は、「米国はNASAを本気で潰す気かもしれない」と語った。

月に滞在できる拠点を作る計画

こうした中、NASAのブライデンスタイン長官が2019年9月に来日した。東京大学で行われたシンポジウムでブライデンスタイン長官は、「米国にとって日本は最高のパートナーだ」と称えるとともに、月の周回軌道に建設予定の小型宇宙ステーション「月軌道ゲートウェイ(以下、ゲートウェイ)」と有人火星探査について次のように語った。

「火星に到達するには2年ほどかかるので、長期間、月で過ごせるように拠点を作ります。火星は大気に包まれていて、放射線からも守られています。また火星には月には存在しない有機物があり、地下に水が存在していると思われます。ゲートウェイは設計寿命が15年で、月と地球の間は日夜行き来できるようになるでしょう」

ブライデンスタイン長官は「ゲートウェイ」が民間協力と国際協力で構築する「オープンアーキテクチャーだ」と強調した。「ゲートウェイ」への参加を決めた日本は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がすでに研究開発をスタートさせた。国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給で活躍している「こうのとり」の後継機「HTV-X」の開発を進めているほか、トヨタ自動車と共同で有人月面ローバーの開発に着手した。「HTV-X」は「こうのとり」の約1.5倍の輸送能力を持ち、「ゲートウェイ」への物資の輸送を担う。打ち上げ用の「H3ロケット」の開発も進んでいる。