※本稿は、倉澤治雄『中国、科学技術覇権への野望 宇宙・原発・ファーウェイ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
「ガラパゴス化するのは米国」になりつつある
英国は2020年1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)、EUを離脱した。直前の1月28日、英国政府は正式に次世代通信ネットワーク5Gへのファーウェイの参入を容認する決定を行った。翌1月29日にはEUも続いた。
米国のファーウェイ包囲網は崩壊、今や排除に同調するのは日本、オーストラリア、ベトナムだけとなった。「ガラパゴス化するのは米国だ」との指摘が現実のものとなりつつある。
ファーウェイ容認の立役者ボリス・ジョンソン首相は国家安全保障会議(NSC)のあと、「英国民が最高の技術を享受することは死活的に重要で、政府は同盟国との安全保障協力を危険に晒すことはない」と議会で強調した。
しかし決定に至るまでには、米国家安全保障局(NSA)と英諜報機関MI5(MilitaryIntelligence Section5)の間で長く激しいバトルが繰り広げられていた。
英国は2019年4月、NSCでファーウェイの参入を一部認める決定を行った。評決は5対4だったと伝えられる。ところがこれに不満のギャビン・ウィリアムソン国防相が情報をリーク、当時のテリーザ・メイ首相によって解任される騒ぎとなった。
土壇場で米英諜報機関が大バトル
一方米国は世界最強のインテリジェンス同盟「ファイブアイズ」が崩壊の危機に晒されるとしてロビー活動を展開、英国政府に対する圧力は2020年に入って激しさを増した。
あまりの執拗さにMI5トップのアンドリュー・パーカー長官は1月12日、英紙ガーディアンとのインタビューに応じ、「たとえファーウェイ製品を採用しても、米英の諜報機関としての連携が損なわれるとは思わない」と否定、むしろ米国の圧力に不快感を示した。諜報機関のトップがインタビューに応じるのは極めて異例である。
焦ったのが米国だ。翌1月13日には米国のマット・ポッティンガー副顧問(国家安全保障担当)率いる代表団が英国に乗り込み、セキュリティーリスクを証明する「大量の証拠」を英側に示した。米側は、ファーウェイ製品の採用は「狂気の沙汰だ」と警告するとともに、「ファイブアイズ」での情報共有に支障が出ると主張した。
これに対してジョンソン首相は1月14日のBBCとのインタビューで、「特定メーカーを排除するなら他の選択肢を示すべきだ」と応じるなど、対立は深まった。
4Gで出遅れた欧州諸国にとって早期の5G普及は死活問題だ。英国では2019年7月以降、大手通信事業者4社のうちEE、ボーダフォン、スリーUKの3社がファーウェイ製品を採用して5Gサービスを開始した。英国以外でもスイス、イタリア、スペインなどで続々とサービスが始まっている。