米国で成立した「クラウド法」の危うさ

NSAの「作戦」は見事に成功、本社のネットワークに侵入して社内情報、人事・組織情報、技術情報、事業計画などの資料をごっそりと入手したといわれる。

米国では2018年、「クラウド法」と呼ばれる強力な法律が制定された。「クラウド・コンピューティング」のことではない。正式名称を「Clarifying Lawful Overseas Use of DataAct」(CLOUD法)という。「クラウド法」は情報機関があらゆるデータに令状なしでアクセスすることを事実上認めた。

きっかけは米国政府とマイクロソフト(MS)の訴訟である。2013年、米捜査当局はMSに麻薬捜査の一環として顧客の電子メールを開示するよう求めたが、MSはサーバーがアイルランドにあることを理由に拒否したところ訴訟となった。

地裁では捜査当局が勝訴したが、高裁では敗訴した。「クラウド法」の成立により、米政府機関は米国で事業を展開するすべての企業のすべての情報にアクセスできることになったのである。もちろん日本企業の米国支社も含まれる。

法案はろくに審議されないまま予算案に紛れて可決された。米国自由人権協会は捜査機関が「法令に準拠せずに個人を盗聴できる」として反対を表明したが、時すでに遅しだった。

独自の半導体開発とOSの構築を進めてきた

2019年9月、ファーウェイはAIコンピューティングプラットフォーム「Atlas」を発表した。記者会見した胡厚崑ケンフー副会長兼輪番会長は「今後5年で人工知能によるAIコンピューティングが8割を占めるようになるだろう」と語った。米国主導のコンピューティングに対する挑戦とも受け取られた。「Atlas」を支える半導体チップはファーウェイが独自に開発した「昇騰(Ascend)」だ。

ファーウェイはインテルやクアルコムから現在も半導体を調達する一方、独自の半導体開発とオペレーティング・システム(OS)の構築を進めてきた。「昇騰」には「地」から「天」に「気」が昇るとの意が込められている。世界最大の半導体メーカー「インテル」や「クアルコム」、世界最大のコンピューター機器開発会社「シスコシステムズ」や「ジュニパー」、ソフトウェア開発会社「マイクロソフト」「オラクル」「IBM」などが綺羅星の如く並ぶ「天」に向けて、ファーウェイの「気」が上昇を始めるとの意図が込められている。