中国で電子決済が一気に普及した背景

もともと中国では「信用(誠信)」という概念が希薄だ。ネット通販の黎明期には、偽物や不良品を送り付けられるリスクが高かった。このためアリババの「支付宝(アリペイ)」では、買い手の代金を一時的に保管し、受け取った商品に問題がなければ売り手に代金を渡す「第三者決済サービス」を始めた。これによりネット通販の信用度が上がるとともに、銀行を通さない決済が一気に普及したのである。

クレジットカードの普及が一部の層にとどまったことも、「信用スコア」と電子決済が急速に普及した理由の一つと考えられている。中国でのクレジットカードの保有率は2016年の統計で13.8%である。

一方、中国政府は詐欺や脱税、虚偽報告、不正取引などが、社会全体の信用度と国家の競争力を妨げているとして、「社会信用システム」の構築に動き始めた。2013年1月、中国国務院は信用情報を活用するための「征信業管理条例」を発表、2014年には「社会信用体系建設計画綱要」を策定して、2020年までに信用システムを構築することを決定した。

「社会信用システム」の適用範囲は「政務誠信(行政の信頼)」「商務誠信(取引の信頼)」「社会誠信(社会の信頼)」「司法公信(司法の信頼)」を中心として、小売り、製造、交通、医療、観光、スポーツ、環境など、社会全体の活動に及ぶ。

CCTVカメラ(閉回路カメラ)監視安全システム
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SNSの発信履歴から交友関係まで紐付けるシステム

中国人民銀行は2015年1月、「芝麻信用」を含む8社に、個人信用ビジネスへの準備を促進する通知を発表したが、狙いはこの8社から政府の「社会信用システム」を担う企業が出現することだった。しかし金融取引、税、犯罪などにかかわる企業や個人の情報が含まれることから、公平性を担保できないなどの理由で、これら8社に機能を担わせることを断念、8社と中国互聯網金融協会が出資する「百行征信バイハンクレジット」に対して信用情報業務の免許を発行した。

政府の「社会信用システム」には借金踏み倒しなどの情報だけでなく、食品や医薬品の安全性、環境汚染などの情報に加えて、地方政府が保有する行政罰、判決情報、納税・社会保険料情報、交通違反情報などが組み込まれる予定だ。「信用」を失墜すると企業は株の発行、税制優遇措置、融資などが受けられなくなるほか、個人は航空機や高速鉄道に乗れなくなるなどのペナルティーが発生、現実にブラックリストに載った500万人以上が搭乗を拒否されたという。

「社会信用システム」により、身分証や戸籍情報、宗教・民族、学歴・職歴、口座情報、納税・保険情報、顔認証を中心とした生体情報、位置・移動情報、SNSを通じた発信履歴や交友関係、購買履歴、通信履歴、閲覧履歴などが紐づくことになり、欧米メディア・研究者による「超監視社会の出現」という「ディストピア論」の根拠となっている。