膨らみすぎた「期待感」を沈静化させたい狙いか
推測するに共同通信のニュースソースは、膨らみすぎたアビガンに対する国民の“期待感”を沈静化したかったのではないか。記者はこれに乗って(あるいは乗せられて)、「有効性が示されなかった」と記事にした。かくして事情に詳しいニュースソースの“思惑”は達成された。最初からアビガンの「有効性」は問題ではなかった。「中間解析結果」が利用されたのもそのためかもしれない。
安倍首相は新型コロナウイルスの発生当初からアビガンに対する期待感を公言していた。当然のごとく国民も期待している。さまざまな状況を“忖度”すれば、厚労省としてはアビガンを早期承認せざるを得ない。周辺には官邸の意思を忖度して早期承認を推進したい勢力もいる。
だが、そんな状況に待ったをかけようとする人々もいる。
共同通信の記事は「アビガンは催奇形性の問題などがあり、専門家からは『効果や安全性を十分確認せずに進むのは納得できない』『月内の承認方針は前のめりだ』などの声が出ている」と指摘している。
今回の記事は、表面的にはアビガンの「有効性」に焦点を当てている。だがその裏では早期承認をめぐる推進派と反対派のせめぎ合いがあるのだろう。この実態を抉り出せれば、この記事はもっと読み応えのあるものになったような気がする。
アビガンが早期に承認されるかどうか、依然としてはっきりしない。第1波を乗り切った日本としては、次に来る第2波、第3派への備えを万全にする必要がある。切り札の一つはアビガンだが、そこにもさまざまな思惑がうごめいている。
アビガンの早期承認は目下国民的な関心事である。共同通信は25日深夜「アビガンの5月承認を断念 効果まだ不明、企業未申請」との記事を配信した。翌日の会見で加藤勝信厚生労働大臣は「5月中の承認は見送る」と発言、この記事を追認した。とはいえ、「臨床試験(治験)を継続し、有効性が確認されれば迅速に薬事承認を行う方針には変わりはない」とも述べており、早期承認を諦めたと言うわけではなさそうだ。いずれもタイミングを狙ったような記事だったが、決定的なファクトを提示できなかったことを含め、結果として今回の記事は「洛陽の紙価を高める」ことにはならなかった。