共同通信の記事を要約すると以下のようになる。複数の医療機関で進められている臨床研究の「中間解析結果」が今月中旬に厚生労働省に提出された。それをみた「複数の関係者」は共同通信の取材に対して「明確な有効性が示されていない」と証言した。これを根拠に同社は「治療薬アビガン、有効性示せず 月内承認への『前のめり』指摘」との見出しをつけて配信した。

複数関係者の証言が根拠

この記事は「現時点で(アビガンは)薬として十分な科学的根拠が得られていない状況だ」と指摘する。そのうえで「アビガンは催奇形性の問題などがあり、専門家からは『効果や安全性を十分確認せずに進むのは納得できない』『月内の承認方針は前のめりだ』などの声が出ている」と、早期承認に否定的な見解を示している。

記事のネタ元(情報源)である複数の関係者は、「ウイルスの減少率に明確な差が出なかった」と証言している。おそらく「中間解析結果」に目を通しているのだろう。

共同通信がこの報告書を入手しているかどうかは、この記事をみただけではわからない。報告書の内容に関する記載がないところをみると、入手していないのだろう。

それはそれとして、間接的ではあるが1人ではなく複数の人が取材に対して「有効性があるとは書かれていてない」と証言しているのだから、この記事にはそれなりの信憑性があるようにもみえる。

これに驚いたのが藤田医科大学(愛知)である。同大学は複数の医療機関で行われている臨床研究の代表を務めている。記事が配信された翌日、コメントを発表すると同時にオンラインで記者会見をを行った。

NHKが会見を受けて配信した記事によると、この席で研究責任者である感染症科の土井洋平教授は以下のような説明をした。

・安全性などに問題はなく、解析を担当する機関から、研究を最後まで続行するよう勧告を受けた
・そもそも今回の研究は、研究を行う各施設で有効性を評価するものではないため、現状ではアビガンの有効性について評価はされていない
・有効性については、審査機関が他大学での症例報告もまとめた上で最終的に評価する枠組みとなっている

なんのことはない。解析結果の位置付けは共同通信と研究機関代表である藤田医大とでは全く違うのだ。これではアビガンに治療薬としての有効性があるかどうか、議論それ自体がかみ合わない。中間解析結果が藤田医大の指摘する通りだとすれば、共同通信の配信した記事は誤報ということになる。