アテンド業の草分け坂田洋介

2000年、バンコクの歓楽街で遊んでいた坂田氏はたまたまタイの美容整形技術の高さを知った。日本に帰国後、整形の仲介ビジネスを始めることに。ウェブサイトに整形メニューの一つとして「性別適合手術」を掲げると、当事者からの問い合わせが殺到した。あくまで顔面の美容整形を中心に取り扱っていくつもりだったが、思わぬ“顧客”に対応するうちに「性転師」の草分け的存在になっていく。

著者は共同通信の記事としてタイでの性別適合手術を盛り込んだ連載を配信。その、坂田氏らアテンド業者を主役に据え「性転換ビジネス」の全貌を見渡すべく記したのが本書だ。冒頭、自身の陰茎を見つめ、自らの性を問い直す場面がある。このテーマに懸ける強い覚悟を感じる。

著者によると、性転換アテンド業者は、大きく2つに分類できる。00年代に登場した坂田氏ら、性同一性障害の非当事者で、商売っ気の強い「第1世代」と、10年代に手術を経験した当事者が始めた、ネットワーク力や結束力に強みをもつ「第2世代」だ。

伊藤元輝『性転師 「性転換ビジネス」に従事する日本人たち』(柏書房)
伊藤元輝『性転師 「性転換ビジネス」に従事する日本人たち』(柏書房)

YouTubeなどを駆使したプロモーションを展開しオープンで明るい社風の「G-pit」や、情報を敢えて抑え「弊社は、決して手術を推奨しているわけではございません」とうたう会社など個性もさまざま。ニッチな業界に過当競争とも表現できるほど業者がひしめき、競争は激化している。

第2世代の会社立ち上げの経緯からは、性同一性障害を抱える当事者のリアルな悩みや葛藤も読み取れる。また、取材を進めるうちに、日本国内の性転換手術に関わる問題が見えてきた。

さらに、著者はアテンド業者に同行し、巨大な美容整形外科病院「ヤンヒー国際病院」など複数の病院の内部にも入り込んでいく。タイが「性転換先進国」になった経緯にも迫る。