日本国内の問題だらけの手術事情

取材を進めていくうちに、著者は日本国内の性転換手術に関わる問題に向き合うことになる。

「半世紀ほど前に性転換手術を行った医師が有罪判決を受けた「ブルーボーイ事件」がきっかけで、30年間ほど性転換医療が止まった『空白期間』があります。1998年に埼玉医大での手術を皮切りに、公的な手術療養が行われるようになりました。しかし、30年のブランクはいまだに大きく、性別適合手術を受けられる医療施設も、執刀できる医師も足りていない状況です」。

18年には日本国内で大きな動きがあった。手術が保険適用されたのだ。そのため一時は「性転師」たちを廃業の危機が襲った。だが実際には業界はなくならなかった。

手術の前段階として必須とされている「ホルモン製剤の投与」は保険適用外のままだったため、わずかな例外を除いて、一連の治療すべてが混合診療あつかい、つまり保険の対象外となってしまうというお粗末な事態が生じた。手術の実態に即していない「欠陥制度」という批判が集まっているのだ。まだまだ当事者たちを巡る状況は厳しい。