マツダレンタカーを買収し参入の条件を整え

2009年の開業当時、市場にはオリックスカーシェアなど先行する事業会社はあったが、実際のカーシェアの利用は広がっていなかった。このような状況下では、仮に資金に余力のある巨大企業であっても、国内に数万台の配車を一気に行う決断は難しい。

タイムズカーシェア車両台数の推移

市場競争のなかでカーシェア事業を優位な立場で展開していくには、「貸し出し車両(自動車)」と「ステーション(駐車場)」の2つを取り扱う能力が基本条件となる。すなわち、自動車購入とメンテナンスのノウハウ、そしてステーションを次々に開設していく展開力が必要になる。

パーク24グループは2009年5月にカーシェアを始めるにあたり、同年3月にマツダレンタカーを買収している。全国に展開しているタイムズの駐車場を活用でき、ステーションの開設については優位な立場にあった。そして買収によって車両に関するノウハウも入手した。

大規模展開をぐっと控え局地戦を重ねる

未来は予測できないが、先に述べたようなカーシェア事業者に求められる2つの能力のように、事前に押さえておくべきマーケティング戦略上の基本条件はある。パーク24グループは、この条件を踏まえてカーシェアサービスに乗り出した。戦略的な計画性をもった市場参入である。しかしそれは十分条件ではなく、必要条件である。不確実性の雲が完全に吹き払われたわけではない。

この時点でのカーシェアのように新規性の高いサービスを、誰がどのように利用するかというマーケティング問題については、事前に見通すことが極めて難しい。未知の市場を創造する問題であり、それは過去のデータから予測を試みても精度は低くなる(栗木契『マーケティング・コンセプトを問い直す』有斐閣、2012年)。

2009年、それまでマツダレンタカーが展開していたカーシェアサービスの17ステーションに、新たに2ステーションを加えた形でタイムズカーシェアとしてスタートする。

パーク24グループは、この事業が、未来のモバイルライフを切り拓くものとなる可能性を強く感じていたが、一気呵成かせいに大規模なプロモーションを行うことは控えた。冷静に考えれば、タイムズカーシェアの実際の利用者は、用意されているステーションが身近で便利だという人たちとなる。大規模なマス・プロモーションを展開したところで、そこで情報を受け取る多くの人たちはすぐには、身近で利用できないのである。