タイムズカーシェアは、ローカル・プローモションに徹してきた。典型的な方法は、カーシェア車両を配備するタイムズパーキング(ステーション)へののぼり旗の設置である。何とも地味な方法だが、このステーションのメイン顧客は、周辺を行き交う人たちなのであり、この人たちに「ここでカーシェアが利用できるようになった」と知ってもらえば十分である。低費用でありながら、有効性の高い方法である。
タイムズカーシェアは、このような局地戦を積み重ねてきた。必要条件としての戦略計画は押さえつつも、これにもとづく一気呵成のマス・マーケティングを避けたことで、タイムズカーシェアには、実践のプロセスのなかでの以下のような、やってみることで生まれる気づきを拾い、マーケティングの展開を変更していく可能性が生じる。続いてこの実践の過程で生じる気づきを拾い、戦略を編み直し、有効なものとしていく動きを追跡していこう。
成長のプロセスで多くの思い違いに直面
5年ほどかけて車両数が1万台をこえた2014年ごろからタイムズカーシェアの事業は黒字に転換している。現在では1万2000カ所を超える全国のステーションに2万6000台以上を配車している。その成長のプロセスでは、多くの「思い違い」に直面したという。いくつか紹介しよう。
メイン顧客は個人利用者という思い違い
サービスを開始した初期の利用者は、個人会員が圧倒的に多かった。しかし、配車台数が1万台を超えた2014年ごろから変化が起こる。法人契約が増えだしたのだ。この頃から、社用車を保有していた企業から、カーシェアへの切り替えの打診を受けることが増えたという。
例えばこうした社用車は、東京の本社スタッフが関東周辺の自社工場や得意先を訪問するのに活用されていた。そこでの問題は交通事故だ。事故を減らすにはどうすればいいか。その答えがカーシェアだった。鉄道などの公共交通機関で訪問先の最寄りまで移動し、そこから先の移動にタイムズカーシェアを利用すればよい。事故の可能性は減少するし、移動時間も有効利用できる。渋滞に巻き込まれる時間ロスも削減できる。
都心部だけではなく、全国各地にステーションが開設されるようになると、社用車をカーシェアに切り替える企業が現れはじめた。現在では47都道府県に展開しており、新幹線の新青森駅から鹿児島中央駅までを結ぶ東北・東海道・山陽・九州新幹線の全駅の半径500m以内にステーションを設けている。この結果、約4割が法人会員である。