以上は標準的な例である。他に、「陽性の感染者を隔離施設に搬送する」「採取された検体をPCR検査のできる機関に運ぶ」等もあるが、その保健所の体制による。保健所同士で助け合い、小規模の保健所の管内で感染者が発生したら応援に行くこともある。保健所として対応しているため、所内会議で情報を共有して方針を固め、各部署が連携して取り組む。不安・心配・苦情を訴える電話も多いことから、電話対応は職員全員で受け、保健師に回すべき電話を絞る工夫をしている所もある。

保健師ならではの対応は、積極的疫学調査であろう。これには、日頃からの健康相談・家庭訪問等の支援技術、疫学の知識、結核等への感染症対応技術などが活かされている。また、地域をよく知っていること、地域の流行状況を把握していることが、発生時の判断と対処に活きる。医療機関への入院調整等には、日頃のネットワークが活きる。

公衆衛生を守るため、保健師の質と量が求められる

人々の生命と生活(公衆衛生)を脅かす問題は、近年、頻回に起きている。東日本大震災に続いて各地の豪雨、地震等である。感染症だけでも、SARS(重症急性呼吸器症候群)、新型インフルエンザ、MERS(中東呼吸器症候群)、デング熱等が発生している。保健所は、それらに第一線で立ち向かう機関である。

災害は、限局的な地震等であれば、被災地以外の都道府県から応援派遣する仕組みができているが、今回の新型コロナウイルス感染症は、世界中で猛威をふるい、終わりが見えないことから、都道府県をまたいだ応援も難しい。

一方で、保健所はこの30年間で半減してしまったのが現状である。地域社会を守るためには、おのおのの地域で保健所の機能を強化する必要がある。また、保健所を減らしていく際に、多くの都道府県で、保健師などの職員の採用を抑制した。このため、保健所保健師は、全国的に30歳代後半から40歳代前半の中堅層が薄い。保健所の弱体化は、日本の人々の生活と生命を守るとりでを失うことである。

保健師は、対人保健サービスの先頭に立って、各保健所の機能を発揮することに貢献している。その活躍を支えているのは、専門職としての確実なトレーニングと覚悟、看護職としてその人に寄り添う姿勢であり、ひとたび健康危機が発生すると、24時間対応する。健康危機がさまざまな形であらわれ、私たちの生命と生活を脅かしている現在、保健師の質と量の確保が求められている。

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