国家資格を持ち、全国で約6万2000人が従事
では、保健所に不可欠な保健師とは、どのような職種なのだろうか。一言でいえば、公衆衛生を看護の側面から支える看護職である。
保健師は、1948年制定の保健師助産師看護師法(以下、保助看法)で正式に位置付いた国家資格である。当時、行政に看護職を入れるためには、看護師に特別な訓練を行う必要があると考えられ、国家資格となった。保健師は、「厚生労働大臣の免許を受けて保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう」と規定され(保助看法第2条)、保健師でなければ、保健師の名称を用いることができない(同第29条:名称制限)。保健師の修業年限は、保健師が従事する現象・仕事が、時代の変化とともに複雑困難になっていることを踏まえ、従来「6カ月以上」だったものが、2009年7月から「1年以上」に改正された。
保健師として就業しているのは、全国で約6万2000人。その内、約6割の3万8000人が、市区町村・都道府県等の地方自治体で働いており、行政保健師と呼ばれている(図表1)。行政保健師のうち、市町村の保健師は増えているが、保健所保健師はほぼ横ばいで、8000人を下回ったままである(図表2)。
仕事は、「健康づくり」から「災害対応」まで幅広い
保健師の基盤となる学問は公衆衛生看護学、疫学・保健統計、保健医療福祉行政論である。基本的なスキルは、家庭訪問、健康相談、健康教育、地域診断、システム化・施策化、ネットワーキング等である。
つまり、問題事例が発生すると、その人の生活の場に行き(アウトリーチ)、健康相談をしながら病状等を把握し、緊急性を判断して、医療につなぐことを含めて必要な手立てを講じる。他にも似た事例がないかを探し、必要に応じて対処するが、同時に、共通する原因を探索して対策を講じ、再発を予防する。地域の健康情報を収集・分析するとともに、積極的に調査研究して問題の原因を特定・診断し、対策を考えて優先順位を付ける。時には社会資源を創り出し、予算化・施策化する。保健師は、これを、多くの職種と連携しながら中核となって推進する。
その仕事は、地方自治体が直面する問題に応じ、時代とともに変化する。例えば、1950年代には結核等の感染症、その後、母子保健、精神保健、高齢者保健等が課題となり、年代が進むにつれて、介護予防、地域づくり、虐待問題等が加わった。
また、近年は、災害対応・健康危機管理が大きな仕事になり、さらに今、新しい感染症に取り組んでいる(図表3)。保健師は、行政に働く看護職として、常に、いまだ解のない、未知の問題に立ち向かっていくことになる。このため調査研究力が求められ、近年は、大学院修士課程で教育する大学も増えつつある。