平和な緑バッタが、凶暴な黒色群生相化するメカニズム

バッタは普段、緑色の体色をしている。これを専門用語で「孤独相」と呼ぶ。

豪雨があると、そのあと一面にバッタの繁殖にとって好適な草原ができる。するとバッタは繁殖を繰り返し、密度が増す。バッタ同士の体が互いに触れ合うほど高密度になり、幼虫のバッタ同士の脚や触角が触れ合うようになると、その刺激によって体色が黒色化するのだ。「群生相」と呼ばれるバッタの出現だ。

群生相は、高密度になったバッタ集団が、いまいる場所には食べ物がないことを察知して生まれる。食糧不足を回避して新天地を求めて生き残ろうとする、バッタの体内に潜む仕組みとして進化してきたものなのだ。

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黒化した群生相のバッタは、孤独相のバッタとは性質が大きく異なる。体の割合に比べて翅(はね)が長く、後ろ脚が短くなり、背中の筋肉は縮小する。そして成虫となって、新たな穀倉地帯を求めてスワームとなり、大群で飛翔を開始する。

今年、公表された研究では、群生相の成虫は数こそ少ないが大きな卵を産むこともわかった。不安定な環境では大きな卵から産まれる子のほうが生き残りやすいだろう。生存戦略が大きく変わるのだ。

バッタの変化を司る「体内ホルモン」

生物が個体として持てる資源は限られているので、背筋や脚に使う資源を、翅を伸長させることに使うと考えられている。卵数と卵サイズの関係も同じである。こういった変化を司っているのが体内ホルモンである。

群生相は、飛翔に適した体つきとなり、いまいる場所の草を食べ尽くすと、大群となって別の緑の場所を見つけて飛翔する。群生相化したバッタでは、行動も変容する。みなが同じ方向に向かって行進するようになるのだ。「マーチング」と呼ばれるこの行動は、群れのなかでお互いに衝突して共食いしないために生じると考えられている。

このようにして、砂漠の各地に点在する草原で群生相化したバッタの集団が、緑のある新たな畑や草地に襲い掛かり、食べ尽くしては次の草原を目指し、ついには何億もの数となって、農地を次々と裸地にし、すでに新型コロナで貧困化した地域の食糧を根こそぎ奪っていくのだ。