本当の「原因」は人間社会、かもしれない……

2019年に公表されたバッタ被害問題を扱った総説論文には、バッタの大発生は、人類の食糧だけでなく家畜飼料、つまりは食肉の確保にも大打撃を与えると警告している。そして生物多様性の喪失にもつながるだろう。

大発生の裏には、世界各地で起こっている農地を確保するための森林伐採も関与する。土壌流出による新たな草原の出現や、広大な面積に単一の作物を作付けするというモノカルチャー農業(単一作物大規模農業)の拡大も、バッタにとっては大発生を助長するのに好適な環境を人類が提供しているのだ。

FAOのサイトによると、2020年5月4日現在、サバクトビバッタは、西はケニア・エチオピア・ソマリア・エリトリア・スーダンまで、アラビア諸国ではイエメン・サウジアラビア・イラク・オマーン・UAEにその発生を拡散した。スワームはイラン南部からパキスタンへと広がり、東の最前線はパキスタン-インドの国境地帯である。そして春に繁殖したスワームは6月のあいだいくつもの波となって押し寄せるとFAOは予測する。

サバクトビバッタの群れが中国に向かっている、との一部報道もあったようだが、過去の大発生の記録とバッタ専門家の見解では、パキスタンの東にあるヒマラヤ山脈は越えられないといわれている。

食料自給率の低い日本も無縁ではいられない

規模に大小の違いがあるものの、バッタの大発生はアメリカ大陸、オセアニア、そしてフィリピンや日本でもときおり生じている。

日本では、河川敷の広大な河口草原にトノサマバッタが大発生する例が以前より知られている。河口草原は、河川の開拓と治水の進歩によって消滅した。しかし、1981年沖縄本島南部のイナゴ、1986年鹿児島県馬毛島、1995年と2007年に関西国際空港の草原でトノサマバッタの大発生が生じている。

これらの大発生はいずれも、天敵である糸状菌の感染によって終わった。サバクトビバッタでも、「メタリジウム」という昆虫に感染する糸状菌を用いた防除も検討されているが、防除の中心は発生モニタリングと化学農薬の散布である。

アフリカ・中東・西アジアの穀倉地帯へのバッタの襲来が、コロナ禍で襲い掛かる世界的食糧危機にトドメを刺すかもしれない。そして、カロリーベースで37%というとても低い食料自給率(平成30年度)の日本は、その影響を大きく受ける可能性が否定できないのである。

■参考文献
1)Zhang et al. (2019) Annual Review of Entomology 64, 15‐34
2)Cullen et al. (2017) Advances in Insect Physiology 53, 167‐285
3)Maeno et al. (2020) Journal of Insect Physiology 122, 104020
4)伊藤ほか(1990)動物たちの生き残り戦略. NHKブックス.
5)Locust watch‐Desert Locust. 4 May 2020.
http://www.fao.org/ag/locusts/en/info/info/index.html
6)Dunn (2017) Never Out of Season: How Having the Food We Want When We Want It Threatens Our Food Supply and Our Future. Little, Brown and Company. ISBN‐10: 031626072X(邦訳:ロブ・ダン著、世界からバナナがなくなるまえに: 食糧危機に立ち向かう科学者たち. 青土社. ISBN‐10: 4791770056)
7)前野 ウルド 浩太郎(2012)孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生(フィールドの生物学). 東海大学出版会
8)田中ほか(2015)関西国際空港の一期島と二期島におけるトノサマバッタの大発生と管理. 関西病虫研報(57):1‐9
9)藤崎・田中編(2004)飛ぶ昆虫、飛ばない昆虫の謎. 東海大学出版会.

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