歯科大学生の大半が、国家試験(国試)にストレートで合格して歯科医になれるという時代は、今は昔。私立大学の歯学部では6年で歯科医になれる割合が2割を切る学校もある。入学生の半数以上が、留年もしくは国試不合格で浪人という現状を、医療ジャーナリストが報告する。

見せかけの合格率を底上げしたい

2020年3月16日に発表された2020年度の歯科医の国試合格率は、65.6%(3211人受験して2107人合格)で、前年(63.7%、2059人合格)よりは上向いたが、同時に発表された医師の92.1%に比べて著しく低い。2000年頃までは歯科の国試合格率も9割を超えていたが、近年は受験者の3人に2人前後で推移。背後のからくりを知ると、より過酷な実態が見えてくる。

歯科医院の医療機器
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まず、歴史的経緯を遡ってみたい。1961年に国民皆保険制度が導入されると、歯科にも患者が殺到。甘い食品の広まりから“虫歯大国”へと突入、続々と歯学部が誕生した。現在29ある歯学部のうち、22校が61年以降に大学・学部を新設している。69年、人口10万人当たり30人程度だった歯科医師を50人にまで増やすという目標が閣議決定された。今も歯科医は増加し、人口10万人当たり80人を上回り、最多の東京都では120人に迫る。

片や歯磨き習慣など予防の普及により虫歯患者は急速に減少し、過当競争を招いている。歯科医師過剰時代の到来は、80年代には認識されていた。歯科医師の新規参入の削減策が検討され、87年に歯学部入学定員の「20%削減」が掲げられ、98年にさらに「10%削減」が求められた。しかし、国の指導力も私学にまでは及ばない。追加の10%削減は完遂できなかった。“入り口”を狭めることができなければ“出口”で調整するよりない。文部科学省が各大学に定員削減を要請するとともに、厚生労働省が国家試験の合格基準引き上げなどの抑制策を取った結果、合格率が7割を切る時代に突入した。