こんな話がある。このプロジェクトの中間報告会で、目標としていた数字が達成できない状況になったとき、報告会前日、プロジェクトルームで最も青い顔をしていたのは、当時コンサルタントとして現場に入っていた私だった。周りのチームの人々(組織の当事者たち)が、あまりに絶望的な顔をしている私を見て心配になり、私に対して「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私たちが何とかしますから」と声をかけてくれたぐらいだった。
そのとき、私は「この人たちは、心の底から黒字化を達成すると信じていないのではないか」と感じた。この事件があった後、チームの人間と毎日のように個別に話し合い、ひざ詰めで、「なんとしてもやりきろう」と語り合った。いつしか、こうした「熱意」は組織に伝播し、業績が少し上向いたときがトリガーとなって戦闘能力が高まり、全員が「戦う集団」に変わっていった。今思い出せば、この「やる気の変化」が、最も業績向上に寄与した気がしてならない。
さて、実際に弊社が手がけた製造業の再生事例を紹介しながら、事業再生について語ってきた。ここで「事業再生」のために必要なことをまとめたい。
企業は、組織の集合体であり、組織は事業活動の集合体である。また、事業とは、その事業を動かす「個人」力の結晶だ。従って、企業、事業を再生させるためには、個人の活動現場にまで下りてゆき、丹念に個々人の意識を変えてゆく必要がある。全体的にこういう傾向だから、漠然とこうすればうまくゆく、などという成功例は聞いたことがない。
私は、戦略スタッフとして極めて有能な人物が、企画部門に配置され、管理側になった瞬間に、ハンズオフ(丸投げ)になり、「権限委譲」の名の下に「責任放棄」のマネジメントを行っている姿を何度も見てきた。また、その結果、現場の方向性がバラバラになり、組織の縦階層(機能別)、横階層(役職別)に深刻な断層、亀裂が生じ、事業がどんどん毀損するというのが業績悪化のスタートとなる。
事業再生とは、マネジメントそのものであり、実直なまでに経営のPDCAを守り抜くことなのである。