この会社は地元の名門企業で、独自素材を市場に供給することでマーケットにおいてユニークなポジションを確立していた。しかし、当時、中国からの安価品の攻勢にさらされ、製造現場では工場稼働率が40%にまで落ち込んでいた。流通の中抜き、不採算製品からの撤退など様々な手を尽くしたが、しょせんは縮小均衡路線を踏襲しているにすぎず、赤字は拡大。とうとう売り上げは5年前の半分近くに落ち込んだ。
「今期中に黒字化しなければ、この事業からは撤退します」という本部長の宣言でプロジェクトはスタートした。
こうした不振企業に必要なものは、明確でシンプルな成長戦略のコンセプトだ。難解な経営理論を振りかざし、複雑な説明をすることが戦略スタッフの仕事だと勘違いしている人がいるが、この手の戦略は、内容が難解なだけに「裸の王様」になりやすく、わかりにくいがゆえに、そのまま合意されてしまうという危険性を持っている。しかし、そもそも、その本質を理解している人がいないので、プロジェクトが進むにつれ、様々な解釈が生まれ、組織がバラバラになる。
「あたりまえのことをばかにせず、ちゃんとする」
我々は、この再生現場では、可能な限り戦略を単純化した。その秘訣は勝てる製品・市場への「絞り込み」である。当時、顧客のセグメンテーションが曖昧だったため、同社の製品群は1000を超えていたのだが、顧客のニーズ、競合との関係性から、これらを12に再分類し、それぞれにおいて、価格政策と原材料の配合から、製造プロセスまでを、市場の要求特性に応じて変えていった。また、顧客を、売上高と利益率で重点、非重点、撤退に3分類し、営業人員を再配置していった。このように「誰が、どの製品を、どの客に、いくらで売り込むか」という明確な目標を示し、営業活動を単純化したのである。
このような話をすると、多くの人は「そんなことはうちでもやっている」と言うだろう。実際、この製造業の会社でも、同じことを言われた。しかし、よく話を聞くと、「やっている」と言っている人はほとんどが企画部門の人間か、現場に管理を丸投げしている管理職であり、実際は、嘘だらけの営業日報で、進捗管理をしているレベルだった。彼らは、一切現場を見ていない。