中国版「文春砲」、官僚の不正を暴くネットメディア

雷元書記の転落のきっかけとなったセックスビデオ。それは北京市内にあるマンションの一室から発信された。そこは朱瑞峰さん(44歳)の自宅兼事務所である。

朱さんは官僚の不正を暴くインターネットメディア「人民監督網」を2006年に立ち上げた。私が朱さんを訪ねたのは2013年10月。その時までに80人以上の腐敗や不正を暴いて来たという。

朱瑞峰さん
写真提供=宮崎紀秀氏
朱瑞峰さん

紺のスーツとネクタイ姿で、情熱的に話しながらも柔和な笑みを絶やさない。百戦錬磨のジャーナリストというよりは、誠実なセールスマンといった印象だ。

12畳はあろうかという書斎が、朱さんの城だ。

窓を背にどっしりとしたデスクがL字型に配置され、その上には電話やファックス、本人が常用するラップトップコンピューター以外に、液晶モニターが2つ載っていた。ネットを武器に腐敗を暴く拠点と呼ぶにふさわしい部屋だった。

壁際の本棚には、案件ごとに資料のボックスが整然と並んでいて、彼の几帳面な性格を物語っている。別の壁に掛かる中国全土の地図は彼のカバーエリアそのものだ。

朱さんは中国のマックレイカーなどと称され、欧米メディアの取材も度々受けてきた。マックレイカーとは米国で調査報道によってスキャンダルを暴くジャーナリストに与えられる称号だ。

「私たちは記者として事実を報道するだけです」

例のセックスビデオは、元々、雷元書記と利害関係を持つ者が、彼を揺する材料として撮影したとみられる。そのビデオを朱さんが暴露した結果、雷は失脚したわけだが、そもそも雷が恐喝の被害者だった可能性もある。

その点に良心の呵責のようなものは感じないのか。同じ生業の者として、実はそこが一番聞きたいところだった。朱さんの答えは明快だった。

「(失脚は)当然の結果です。私たちは記者として事実を報道するだけです。処分するかどうかは紀律委員会や政府が決めることですから」

中国では、当局に都合の悪い事実を報じるには危険を伴う。朱さんも、脅迫や暴力を受けた経験がある。だから玄関には監視カメラを設置し、当局から盗聴されるのを避けるために複数の携帯電話を使っている。

腐敗告発の場である「人民監督網」のホームページが、封鎖されるのを逃れるために、IPアドレスは絶えず変更しているという。

「インターネットは中国で党や政府がコントロールしきれない空間です。だからインターネットを通じて事実と真相を明かすことができます。人々に報道の自由、言論の自由を与えることができるのです」