朱さんに同行、狙いは40人以上の愛人を囲う元局長

翌年2月、江西省の南昌市に向かう朱さんに同行した。標的は、上海鉄道局の龍京元局長。2011年、40人が死亡した高速鉄道の衝突脱線事故で、当局が列車を埋めて証拠隠滅を図ろうとしたお粗末な顛末は、当時、日本でも大きく報じられた。

龍はその事故で局長職を解任されたが、朱さんによれば、今も党籍を残しているという。その龍に、妻子がありながら複数の女性と愛人関係を持っている疑いが持ち上がったのだ。事実ならば、共産党の紀律違反にあたる。

「提供された電話番号と身分証だけで48人の愛人がいる。確認を取ってみたい」

朱さんの手元には、龍が携帯電話に保存していたという女性の写真があった。年齢はおそらく20代前半。小悪魔的な色気を放つ女性である。上半身裸で白い乳房をさらし、挑発的な視線をレンズに向けている。自分の指で性器を広げて写した写真もあった。

朱さんは、南昌の空港に到着すると、情報提供者に会うため、市内のホテルに直接向かった。情報提供者は龍と極めて近い関係にあった女性だった。

龍の権力を期待して頼みごとをしたのだが、ないがしろにされたため、腹いせに龍の放蕩ぶりを暴こうとしたというのが告発の動機のようだ。

情報提供者の女性は、先の若い女性とは別の女性の写真を示した。

「この女が彼との間に女の子を産んだと聞きました。他の女は、男の子を産んだそうです。西安にも彼と子供を作った人がいると聞いています」

腐敗や不正の情報が次々と寄せられるように

インフラの建設を伴う鉄道局の局長となれば、相当なコネや力を持つ。朱さんは、愛人関係よりも、龍が在任中、不正な資金を得ていた可能性について興味を持っているようだった。

――複数の愛人とされる女性たちは、龍元局長から、経済的な恩恵を得ていましたか?

「当然でしょ。もし良いことが無かったら、つき合うはずがない」

しかし、情報提供者の女性も、龍が複数の女を囲えるほどの経済力をどのような手段で得ていたかについては、「分からない」と述べるだけであった。

その4日後、朱さんは「人民監督網」で、「鉄道局の局長が47人の愛人を囲っている」とぶちまけた。愛人とされる例の若い女性の裸の写真も、ぼかしをかけた上で掲載した。

その後も、「龍京元局長が節度のない放蕩ぶりで多くの女性に子供を産ませている」「愛人リストを暴露」などと続けて告発弾を放った。

朱さんのこうした業績は、中国国内でも広く知られるようになり、それに伴い、腐敗や不正に関する様々な情報が寄せられようになったという。「人民監督網」には、今も、官僚と愛人たちの秘め事を捉えた証拠がアップされ続けている。