「マイルール」「こだわり」が成長を阻む

「目標を考えて伴走すると言ったって、そんなに簡単にいくはずがない」と思うかもしれません。たしかに、最初から100%を目指すのは難しいと思います。しかし、リーダーも一緒に目標を定めることで、少しずつメンバーのパフォーマンスは上がるはずです。

もう一つ、目標を共有する際に、ぜひチェックしてほしいのが、メンバーが「こだわり」や「マイルール」で損をしていないか、ということです。一体どんなこだわりやマイルールが成長を阻むのか、実例を見てみましょう。

豪速球ストレートでなくてもアウトは取れる

私がコーチングしている野球選手に、豪速球を武器にしているピッチャーのM選手がいます。彼は「ストレートで良い球を投げなければいけない」という思い込みが強く、制球に苦労していました。豪速球にこだわるあまり、ストライクが入らなくなっていたのです。

M選手に目標を聞いたところ、「速い球を投げて三振を取り、制球力も高めること」と答えました。この目標は、残念ながら的を射ていません。なぜだかわかるでしょうか。

それは、その目標が、本質をとらえていないからです。野球で速い球を投げられれば、たしかに武器にはなります。しかしそれは、アウトを取るための必須条件ではありません。

ピッチャーがマウンドに立ったときの役割は、「アウトを取ること」です。三振を取る以外にも、凡打やフライなど、打たせてアウトを取る方法はいくつもあります。それなのにM選手は、三振を取ることに意識が向きすぎていました。速い球を投げれば、打者を抑えられるという思い込みもありました。

つまり、速い球を投げるという「手段」を「目標」にしていたのです。

それは、勝負に勝つための本質ではありません。そこで私は、M選手に次のように言いました。「速い球を投げれば、打者を抑えられるのですか?」と。

M選手は少し考え込んでいたようでしたが、そうではないことに気がついたようです。