「1割負担」を悪用して日に何度も介護サービスを頼む利用者

親などの身内が要介護認定を受けた時、まず始まるのが在宅での介護です。ケアマネジャーが作成するケアプランには要介護になった人の心身状態や家族の事情・要望に添ったサービスが組まれます。

写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです

これは自立支援のためで、サービスを受けたことによって状態が良くなれば元の生活に戻れるし、良くならなかったとしても介護保険適用サービスなら原則1割負担だから、なんとか自宅での生活を続けることはできる。

特別養護老人ホームなどの施設入所を考えるのは、それができなくなった時であり、そうなるまでは在宅での介護をしてもらおうというわけです。

この在宅介護サービスの中心になる存在が、訪問介護のホームヘルパーです。

ホームヘルパーが提供するサービスは「身体介護」と「生活援助」に分けられます。身体介護は食事、着替え、歩行、入浴、排泄の介助など、生活援助は掃除やゴミ出し、洗濯、食事の準備、買い物などです。

家族がいても付きっきりで介護をするのは難しいし、仕事がある場合はなおさらです。そうした家族で対応しきれない部分を補ってくれる存在が訪問介護のホームヘルパー。在宅介護を支える柱といってもいい重要な役割を果たす人たちです。

1時間たった250円で食事を作ったり洗濯をしてくれたり

ところが、このホームヘルパーのサービスが十分受けられなくなる事態が差し迫っているらしいのです。

「その理由のひとつとしてあげられるのが、介護業界に生活援助削減の流れがあることです」と語るのは前出のTさんです。

2018年10月から厚生労働省は要介護度に応じてひと月あたりの生活援助の回数を設定、その回数を超える場合、ケアマネジャーは市町村に届け出をしなければならないという規定を設けました。

その回数は要介護度1が27回、2が34回、3が43回、4が38回、5が31回です。厚労省がこの規定を設けたのは「必要以上に生活援助サービスを使う利用者が多く、福祉財政を圧迫する原因になっている」からです。

どういうことなのか、Tさんが具体的に説明してくれました。

「生活援助には45分未満、45分以上といった時間での区分けがありますし、介護報酬の単位も複雑なので、ここでは分かりやすさ優先で大雑把に説明します。ヘルパーに生活援助を1時間してもらったとすると、1割負担の利用者さんが払う費用は約250円です。介護の専門技術を持ち、家事にも手慣れているヘルパーさんが自宅まで来てくれて1時間250円で食事を作ったり洗濯をしてくれたりするのです。一方、厚労省からすれば、その1回に残りの9割の2000円以上を介護保険などの福祉財源から出すことになる。“家事手伝いのためにヘルパーを安く使っている”と見ているわけです。そこで財政健全化のため生活援助削減の方針が打ち出され、その流れからこの規定がつくられたといえます」