高額な覚醒剤を入手するために、犯罪に手を染める中毒者がいる。では、覚醒剤が高値で取引されているのは、なぜか。経済学者のウォルター・ブロック氏は「法律で禁じられているから、付加的な費用が多額になる。もし、キュウリが違法化されたらどうなるか、想像してみるといい」という――。

※本稿は、ウォルター・ブロック著、橘玲訳『不道徳な経済学 転売屋は社会に役立つ』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)の一部を再編集したものです。

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覚醒剤取締法がもたらした悲劇

覚醒剤かくせいざい(シャブ)の密売人ほど、世の中でみ嫌われている商売はない。多量の覚醒剤は悲惨な死を招くこともある。窃盗や強盗、奴隷どれい的な売春行為などの犯罪に結びつくことも多い。そのうえ「足を洗った」後でも、その影響は一生ついてまわる。中毒者はシャブの奴隷であり、「今日の一発」を得るためならどんな奈落ならくにも喜んで落ちる。

いったい、覚醒剤密売人の邪悪な本性に疑問符をつけることなど、可能なのだろうか。

ましてや、彼らが好ましい人間だなんて──。だれだってそう考えるだろう。

ところで、シャブ中が邪悪な存在として社会から非難されるのは、彼が薬物中毒になったからではなく、覚醒剤取締法に違反したためである。そこで、この法律がもたらした悲劇的な状況を検証することで、シャブの売人こそが、あわれな隣人たちを救済するただ一人の人間であることを論証してみよう。

法による覚醒剤の禁止は、「天文学的」としか形容するほかない水準までその末端価格を引き上げる破壊的な効果を持つ。