もし、キュウリが違法化されたら価格はどうなるか

もしもキュウリが違法化されたらどうなるか、考えてみてほしい。種をいたり、肥料をやったり、収穫したり、市場に運搬したり、販売したりする費用に加え、法からたくみに逃れるコストや、不法栽培が発覚したときにせられる罰金の支払いも、キュウリの価格に上乗せされるにちがいない。

こうしたことは禁酒法時代の密造酒で実際に起きたが、それでも当時、付加的な費用はそれほど多額にはならなかった。なぜなら、法の執行はそれほど厳しいわけではなく、広く一般大衆の支持を得ているわけでもなかったからだ。

一方、覚醒剤については、その付加的なコストは絶大である。覚醒剤取締法は大半の国民から支持されており、いま以上に厳格に取り締まるよう要求する声もある。ヤクザや暴走族のなかにはシャブを厳禁とするところも多く、「法と秩序」を守るべく、警察官に代わって組織内の覚醒剤密売人や中毒者にリンチを加えてきた。警察官にしても、覚醒剤に対する忌避きひ感がこれほど強いと、発覚したときの社会的制裁を恐れて、おいそれとは収賄しゅうわいに応じなくなる。

ドラッグ密売の元締めは、警察官に多額の賄賂わいろを支払うだけでなく、従業員──覚醒剤の製造や密輸、販売に従事する人たち──に対して高額の危険手当を支給しなければならない。さらには、彼らが逮捕された際には、弁護士を雇ったり、残された家族の面倒を見たりする必要も生じる。

こうした諸要素が、覚醒剤の価格を高騰させる理由である。

中毒者は年間400万を支払っている

しかしこれら付加的コストは、法によって覚醒剤を禁止したことで生じたものであり、覚醒剤自体の製造価格は風邪薬やビタミン剤とたいしてちがいはない。覚醒剤が合法化されたならば、中毒者はオロナミンC一本と同程度のコストで一発キメられるようになるにちがいない。

覚醒剤の禁止された社会では、重度の中毒者は、すくなくとも1日に1万円はシャブの購入についやさなければならない。覚醒剤中毒者は、シャブを入手するために年間400万円ちかい大金を支払っていることになる。この多額のコストが、「人間やめますか」とまで言われる覚醒剤中毒者の悲劇的な状況を生み出している。

一般に覚醒剤中毒者は無学な若者であり、まともな仕事では自分の習慣を維持するだけの金をかせぐことができない。もし彼が医学的・心理学的な援助を求めないならば、残された唯一の選択肢は「一発」を確実にキメるために犯罪に手を染め、警察官に逮捕されたり、仲間からリンチされたりすることだ。

さらに言えば、シャブ中による犯罪は、薬物依存症でない者が手がける犯罪よりもはるかに悲惨な結末を迎えやすい。中毒者でない犯罪者は、盗みをはたらくのにもっともよい時と場所を選ぶことができる。しかし中毒者は、「一発」が必要になったらじっくり考えている余裕などなく、しかもそういうときにかぎってドラッグの副作用で頭がにぶくなっているのである。