もしウォーレン氏が大統領になったら?

【三浦】トランプ氏は「ワシントンの官僚はエリートで悪だ」と攻撃することで支援者から拍手喝采を浴びましたが、その支持は底堅くて三十数%ある。次の大統領選で勝てるかどうかは相手の民主党候補しだいですね。現在はリベラル系急進派のエリザベス・ウォーレン氏の名前がよくあがっています。もしウォーレン氏が大統領になったら?

【ウォーカー】ウォーレン氏はウォール街が大嫌い。反金融界・反産業界的な政策を打ち出すでしょう。ただ、上院が共和党多数だから彼女のプランはほとんど実行できず、現実的にはたいして変わらないのでは。おそらく2020年か21年に米国の経済は下向きます。そのときトランプ氏なら「中国が悪い」と言い、ウォーレン氏だったら「ウォールストリートが悪い」と言う。違いはそのくらいで、分断状況も変わらないと思います。

【三浦】ウォーレン氏は野心的な公約を掲げていますが、中間層に課税したくないので、巨大な財源を見つけようと思えば軍事費を削るしかない。米国に防衛を依存している日本にとっては抑止が揺らぎかねません。今でもトランプ政権から米軍駐留経費を4倍にしろという圧力を受けていますが、状況がましになるとは思えませんね。

【ウォーカー】自国の防衛という意味では、たしかにトランプ大統領のほうが日本にとっては都合がいい。永田町はみんなそう考えていますね。

【三浦】日本の安全保障のパートナーは米国以外に選択肢がありません。米国が軍事費を削減するならば日本がその分、自立度を高めなければならない。他方、経済的なパートナーとして中国の存在も要です。その両者が貿易戦争をしていることで日本が受けるダメージは大きいのです。日本は米国側につくという姿勢をはっきり示していますが、米国にここまで依存する「一本足打法」はリスクが高い。日本は自分の防衛力を高めなければいけません。

【ウォーカー】その点で言うと、トランプ大統領の問題は同盟国がついてこないこと。一方、伝統的な大国の中国がナンバーワンに返り咲こうとしています。すると世界は二分され、特にテクノロジーはファーウェイを使う国と、そうでない国になる。

そのなかで一番実力を発揮できるリーダーは、トランプ米大統領でも習近平中国国家主席でもプーチン露大統領でもなく、安倍晋三首相かもしれない。「トランプさん、よくやっていますね」と持ち上げながら、国際関係の橋渡しができるのではないでしょうか。

【三浦】ええ。ただし、日本が外交力を発揮するうえでネックになるのが、安全保障です。NATOに加盟するトルコやドイツなどの国とは、どだい条件が違うのです。トルコは中東地域の盟主の役割を自任していますが、トルコは国防を自前で調達できるからです。日本はと言うと、非対称な二国間同盟に依存する弱い立場です。