“神の手”に興味はない。ロボット手術が必ず世界を席巻する
2006年1月、武中は泌尿器科の“ビッグスリー”の一つ、アメリカのコーネル大学から客員教授として招聘された。外科解剖を指導し、ロボット手術のナビゲーション役を務めてほしいという依頼だった。そこで日本にはまだ導入されていなかったロボット手術を経験する。
「それまで自分なりに日本でトップレベルの手術を行なってきた自負があった。しかし、ロボット手術を見たとき、黒船襲来、これには敵わない、この手術が必ず世界を席巻する、と確信した」
そして武中はこう頼んだ。外科解剖を教える代わりに、私にロボット手術を教えてくれ、と。
2007年5月、神戸大学大学院医学研究科の准教授として日本に戻った。そして2010年7月に、鳥取大学医学部泌尿器学教授となっている。同年8月、鳥取大学医学部附属病院は山陰地方で初めて手術支援ロボット「ダビンチ」を導入。最初の手術は武中に任された。
「極論すればダビンチは誰でも使えるんですよ。車の運転もナビが発達して、自動運転に向かっている。手術も同じです。これからは技術は器械がアシストしてくれる。大切なのは常にアップデートされたナビ、つまり外科解剖学を勉強することなんです」
医療の世界には“神の手”と呼ばれる外科医がいる。ロボット手術が普及すれば、神の手はいらなくなりますね、と訊ねると、武中は頷いた。
「私は神の手には興味がありません。神の手の手術は、その人しかできない。ロボットを使えば、誰でも高品質で再現性の高い手術ができる。いいナビと自動運転の車を作れば、誰でもハイクオリティの運転ができる。私はそちらを求めたい」
多くの患者に、妥協ない高度医療を提供する――自分が小学3年生のときに感じた、哀しみを他の人には味あわせたくないと考えているのだ。