トリが保有していたウィルスがヒトに感染した

ヒトに犠牲者を出したH5N1インフルエンザウイルスは、元来はトリが保有していたものがヒトに感染したもので、それゆえに「高病原性トリインフルエンザウイルス」とも呼ばれています。従来の考えでは、トリが持っているウイルスには「種の壁」があって、トリから直接ヒトには感染しないと考えられていました。

尾内一信、高橋元秀、田中慶司、三瀬勝利(著、編集)『ワクチンと予防接種のすべて 第3版』(金原出版)

しかし、世界各地で発症している例から判断すると、「種の壁」は絶対ではなく、H5N1インフルエンザウイルスに感染しているトリと濃厚な接触によって、例外的に感染・発症することがあるようです。

これまで報告されているH5N1インフルエンザの犠牲者の多くは、感染したニワトリやカモの世話をしたり、解体したり、生肉や生焼け肉を食べたりした人たちです。要するに、ウイルスを含むトリの体液や排泄物と濃厚に接触したり、ウイルスを含む飛沫を肺に吸い込んだり、口から取り入れたりして発症したものと思われます。

逆からいえば、H5N1インフルエンザウイルスを持つトリと濃厚に接触しない限り、現状では感染するリスクは低いとも言えます。このためには、H5N1インフルエンザ患者が出ている国に渡航した場合は、可能な限り生きたトリとは接触しないように注意すべきです。

自分が飼っている愛鳥なども、可愛いと言ってキッスをする人もいますが、ヒトを含む動物とむやみにキッスをすると、とんでもない災難が降りかかることがあります。トリにはインフルエンザウイルスだけでなく、オウム病クラミジアなどを保菌しているものもいます。愛鳥にキッスをして突かれ、オウム病に罹った不運な人もいます。要注意です。

ヒトへの感染力の強い、突然変異を起こす可能性がある

インフルエンザウイルスの名がつくウイルスは、おしなべて変異しやすいウイルスです。

病原性には大きな違いはあっても、新型のH5N1ウイルスは、やはりインフルエンザウイルスの仲間です。季節性ウイルスと同様、変異を起こしやすいことが明らかになっています。

現状ではH5N1ウイルスが、トリからごく少量ヒトに降りかかったぐらいでは発病しませんが、いつ何時、ヒトへの感染力の強い、突然変異を起こしたウイルスが出現しないとは限りません。実験室段階ですが、フェレットやマウスなどの哺乳類に高率に感染するH5N1ウイルスのミュータントも出現することが報告されています。

季節性インフルエンザウイルスのように、高率にヒトからヒトに感染するタイプが出現すれば極めて由々しい事態が出現し、多数の患者と死者が出ます。