新型H5N1インフルウイルスはエボラ出血熱ウイルス並の脅威

この恐ろしいH5N1ウイルスは、季節性インフルエンザウイルスと比べても、形態や構造の違いはほとんどありません。しかし、ヒトへの病原性の強さでは、完全に違っています。

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国立感染症研究所のインフルエンザ研究センター長を務めていた田代真人は、H5N1は病原性の観点からは、完全に別種のウイルスと考えるべきだと述べています。

季節性インフルエンザウイルスでは、ウイルスが感染しただけでは肺炎を起こすことは少ないのです。季節性インフルエンザでは、多くのケースでウイルス感染後に肺炎球菌などの細菌が重感染し、肺炎を発症しています。

これに対して、新型H5N1の方は、ウイルスが感染しただけで激烈な肺炎や全身の炎症を起こし、50%強ものの患者が死亡しています。この場合、病原細菌の出番はありません。エボラ出血熱ウイルス並みのすさまじいウイルスなのです。

新型インフルエンザに感染した人の多くは、発症後1週間以内で死亡しています。重症患者に対症療法を施しても、生存期間を2~3日延長できる程度といわれています。全身の臓器にウイルスが感染することが多く、一命を取り留めても、神経症状などの深刻な後遺症が残る患者が出ています。

抗ウイルス薬は予防効果は「期待」されるが発症すると全く効果がない

季節性インフルエンザでは、タミフルやリレンザといった抗ウイルス薬が、ある程度は治療効果がありますが、新型の方は発症してしまうと、抗ウイルス薬は全く効果がありません。ただし、抗ウイルス薬の事前内服による予防効果は「期待」されています。

H5N1インフルエンザによる患者も死者も、10歳から39歳という活動期にある人たちに多く出ています。H5N1インフルエンザでは何ゆえか、年齢が高い人では死亡率が低くなっています。理由はよくわかりません。

一つの仮説として、このウイルス感染によって全身の炎症が起こるために、抵抗力の強い若者ほど発熱などの生体防御反応が過剰に起こり、それがマイナスに作用して死亡するのではないかとも推測されています。発熱は、生体防御反応の発現でもあるのです。病原微生物の多くは発熱によって増殖が阻害されます。年をとると免疫力が低下するなど、おしなべて良いことが起こりませんが、H5N1感染の場合は逆に、結果として相対的に強くなるようです。

一方、季節性インフルエンザによる死亡者の大半は65歳以上の高齢者です。このように、H5N1ウイルスは季節性のものに比べて、ヒトに対する病原性の点で大きな違いがあるのです。