ヒト‐ヒト感染を起こすH5N1ウイルスはいずれ出現し流行する

『感染力が強い、ヒト‐ヒト感染を起すH5N1インフルエンザウイルスが出現し、人間社会で流行するようになるか否か、もし流行するとすれば、それは何時か、その場合の死亡数はどの程度になるか』について、ウイルス学の専門家は、いろいろなところで予測を聞かれています。

これら3つの質問のうちで第一の質問については、多くのウイルス学者たちの回答は一致しています。すなわち、「ヒト‐ヒト感染を起すH5N1ウイルスが出現し、人間社会で流行を起こすことは避けられない」というのが、多くのウイルス学者たちの見解ですし、日本のウイルス学を長く牽引してきた大谷明(国立感染症研究所の前身である国立予防衛生研究所の所長)も、生前そのように明言していました。

すでに東南アジアだけでなく、ヨーロッパやアフリカなどのトリの中に、ヒト‐ヒト感染は起こさないものの、多種類のH5N1ウイルスが定着し、制御がきかない状態に陥っています。インフルエンザウイルスは変異しやすいウイルスですから、いずれヒト‐ヒト感染を起こすウイルスの出現は避けられないでしょう。

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第二の質問、それが何時起きるかについては、専門家の意見は違っています。確実に言えることは、ヒト‐ヒト感染を起すH5N1ウイルスの出現が遅れれば遅れるほど、犠牲者の数は少なくなるということです。その間にワクチンの備蓄やウイルス感染防御対策も進むでしょう。これは第三の質問に対する回答にも関係しています。

1918年のスペイン風邪では世界で約5000万人もの死者が出た

1918年のスペイン風邪の流行では、全世界で約5000万人もの死者が出ました。H5N1ウイルスは、スペイン風邪ウイルス以上に病原性が強そうですが、現在は当時とは比較にならぬほど医学が進歩しています。

わが国に限って言えば、購入可能な食品も豊富になっており、国民全体の体力もついています。ワクチンも開発され、備蓄量も増加しています。ハード、ソフト両面での公衆衛生も、1918年当時とは比べものにならぬほど発達・完備しています。

確かにH5N1は、すさまじいウイルスですが、極端に恐れることはないはずです。もちろん、これとは別に、政治や行政に当たる人たちは最悪の事態を予想し、十全の対策を立てねばならないことは言を待つまでもありません。

<編著>
尾内一信 川崎医科大学小児科学講座主任教授
高橋元秀 国立感染症研究所免疫部客員研究員
田中慶司 一社 日本医療安全調査機構専務理事
三瀬勝利 国立医薬品食品衛生研究所名誉所員
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