「目標は月商300万円」山の中のスキー場で可能なのか?

ところで、店を軌道に乗せ、2、3年で投資を回収するには、どれほどの売り上げがあればいいのか。

撮影=北尾トロ
英語のメニューはインバウンド用。

「目標は月商300万円かなあ。でも、山の中のスキー場でそれが可能なのか、正直言って見当がつかないですね。どれほどの人が食事を求めて店の前を通るかのデータもない。でも、やってみる価値はあると思う」

「目標は月商300万円です」(田内川さん)(撮影=北尾トロ)

それよりも、問題は味だと表情を引き締める。「有名だから食べにきたけど、たいしたことないな」と、客に絶対に言わせたくないのだ。

「マスターに恥をかかせるわけにはいかないんですよ。混雑時のオペレーションについては東京で青沼さんに特訓します。忙しい時期にはウチのスタッフを応援に出すことも考えています。だけど、自分がいつもいられるわけじゃないでしょう。厨房も狭いので、材料に関してはカレーやラーメンスープを東京から送るしかないですね」

心配なのは、標高が1000メートル以上あること。お湯が沸騰しにくいとなると、茹で時間が通常より長くかかる。ただでさえ、つけ麺は注文を受けてから完成まで時間のかかるメニュー。茹で時間が長いと回転も悪くなるし、客を待たせてしまう。それを防ぐため麺を少し細くすることも考えているようだった。

町おこし&ホテル再生&師匠の故郷に錦を飾る

この店はのれん分けだから独立採算制。田内川さんの利益はほとんどない。でも、それでいいと言う。のれん分けは弟子の独立。のれん分けさせた側が、それを応援するのはあたりまえのこととされてきた。理想は共存共栄。本部が儲ける仕組みになりがちなフランチャイズとは考え方が違う。

ビジネスとして考えてみても、この店にはお金以外のメリットがたくさんある。

山ノ内町は町おこしの“名物にして切り札”を手に入れた。一井ホテルは閉鎖していた店舗物件を復活させるとともに大勝軒のあるホテルという立ち位置を得た。青柳さんは独立を果たし、やる気満々の門出を迎えた。そして、田内川さんは世話になった師匠が“故郷に錦を飾る”手伝いをすることができた。縁結びの神様がいるとしたら、会心の出来だとほくそ笑むんじゃないか。

開店から1時間たった12時。小雪が舞うなか、店を訪れると席はほとんど埋まっていた。なかには、長野市から東池袋大勝軒まで通っていたというラーメン好きの姿もある。

たしかに若干麺が細いようだ。

「いまはそうですが、茹で時間の差は数秒とわかったので、太いのに戻すつもりです。オリジナルの味に近いほうがいいですからね」

当面の目標は一日平均ラーメン100杯。とりあえず休憩時間を設けずにやって、傾向がわかってきたらこの場所に最適な営業形態を作っていくつもりだ。

「はい、お待ち」

注文した“あつもり”が湯気を立ててやってきた。冷えた体を温めるべく一気にすすり上げる。

う、うまい!

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