自立した強い「個」のつながり

それまでのやり方や常識が通用しない環境に置かれると、自分の等身大の実力がわかるし、必要な能力も見えてきます。「仕事に行き詰まったら思い切って海外にひとりで1、2年行ってきたら?」。以前はそういうアドバイスをいっさい信じていなかったんですけど、いまは相談されたら私も同じことを言うと思います。

フリーになって、私はNHKという組織にどれだけ守られていたかということが痛いほどわかりました。それまでも自分の番組は自分が背負っているんだという覚悟でやってはいましたが、いまはその10倍以上の責任と覚悟が自分の背中に乗っているといっても過言ではありません。

また、NHKと民放では演出の仕方や視聴者の受け取り方などに「違いがある」ということは覚悟していましたが、その違いは想像以上でした。私の感覚で言えば、剣道とフェンシングくらい離れています。NHK時代のスキルでなんとかなるだろうという甘い考えはすぐに吹き飛び、日本テレビ系の「news zero」は文字どおりゼロからのスタートになりました。

番組を持たせてもらって1年。溺れないように必死に手足をバタバタ動かしていただけですが、それでも振り返ると、仕事面だけでなく人間的に相当成長できた気がします。

たとえば、「うまくいかないのは会社のせい」といった自分の中の甘えはなくなりました。また、相手が自分に何かしてくれることを期待しないままに「つながる」ということが、うまくできるようになったのも最近のことです。

つながりや絆を維持するのは、それほど簡単なことではありません。夫婦だから、友人だからこれくらいのことをしてくれるのは当然だろうと思っていると、それが返ってこなければマイナスの感情に襲われます。逆に、相手の期待に応えられなければ自己嫌悪に陥ります。だったら最初から多くを期待しなければいいのです。

一人一人が自立した強い「個」となり、決してもたれ合うのではなく、緩やかにつながり合いながら、必要なら互いに救いの手を差し伸べる。仕事でもプライベートでも同じです。少し上から目線で恐縮ですけれど、私たちの世代はそういう「孤独」に慣れ、精神的に自立していく時期を迎えているのではないかと思います。そしてその先に、本当の意味での「居心地のよさ」が待っているような気がします。

(構成=山口雅之 撮影=市来朋久)
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