思い出の品々から人生を振り返る喜び

現代において孤独というのは、何かよくないことのように思われているようです。すぐにSNSでつながろうとするのも、孤独を恐れているからにほかなりません。東日本大震災以降、メディアが「絆」という言葉を多用するようになったことも、孤独の負の印象を強める一要因になっているようです。

作家 五木 寛之氏

しかし、孤独は本当に振り払わなければならない忌まわしいものなのでしょうか――。そうではありません。1人で生まれ1人で死んでいく人間にとって、むしろ孤独こそが自然の姿なのだと私は思います。

誰かと一緒なら孤独を感じなくてすむというのも違うでしょう。仲間と一緒に同じ目的に向かって進んでいるのに、ふと周りを見ると自分の考え方や感じ方は、決して誰とも同じではない。そういうときに人は初めて自分の孤独に気づきます。スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットはこれを「Together&Alone」と表現しましたが、私にはどちらかといえば、『論語』の「和して同ぜず」のほうがぴったりきます。

いい合唱が人々を感動させるのは、一人ひとりが自分のパートを、それぞれ微妙に違う声で歌っているからです。全員が均一な声で同じ旋律を歌っても厚みや力強さは出ませんから、心に響かないでしょう。集団のなかで全体に融和しながら、一方で自分の個性を失わない、和して同ぜずというのは、この合唱のようなイメージです。