たとえば、30歳男性が入院日額1万円の医療保険に60歳払込満了で加入すると保険料は4500円ほどだ。30年間で支払う保険料は総額で162万円になる。入院や手術でこの金額を取り戻すことはほぼ不可能。であれば保険料分を貯蓄しておいて、いざというときには、その資金を活用したほうが合理的だ。

老後に向けてより多くの備えが必要

おひとりさまの場合にはさらに注意が必要。夫婦で暮らすことによって住居費や食費などのコストを下げることができるが、1人暮らしであればそれは難しい。また、夫婦であれば片方が病気になればもう片方が看病するなど、いざというときに支え合うことも可能。おひとりさまはそれができないから、家事代行を頼むなど有料サービスを使わざるをえない。入院する場合には身元引受人も必要だ。つまり、老後に向けてより多くの備えが必要かもしれない。ただし、子育て費用が不要など資金的な環境は大きく異なる。

最近では有料老人ホームを終の棲家に選ぶ人も増えているが、生涯安心とは言い切れない面がある。女性のほうが平均寿命は長いので夫が先に亡くなるのが一般的。その後も老人ホームの月額費用を支払えるかが問題になる。夫が亡くなった後、妻は自分自身の年金額と遺族年金の額を比較し、遺族年金のほうが多い場合には差額を遺族年金として受け取ることができる。しかし、夫婦2人で受け取ってきた年金よりトータルの額は少なくなる。結果的に月額利用料の支払いが難しくなれば、退去せざるをえない。

住まいが賃貸の場合には、老後生活でも住居費がかかることを考えて多めのキャッシュを用意しなければならない。ただ、賃貸であれば、生活が苦しくなれば家賃の安い公営住宅に引っ越す選択肢もある。子どもが独立したら、郊外の小さな住宅で家賃を抑えることもできる。資産状況を見ながら柔軟にコース変更するのがいいだろう。

孫への教育資金贈与も慎重に判断したほうがいい。教育資金であれば1人最大1500万円まで非課税で一括贈与できる制度が13年にスタートしたが、過剰に贈与をすると自身の老後資金が足りなくなる可能性がある。そもそも教育資金や生活費は必要な都度、贈与すれば税金はかからない。一括で贈与するのではなく、進学などに合わせて贈与すればいい。

老後のマネープランは家族構成やライフプランによって大きく変わる。老後資金2000万円不足問題が話題になったこの機会に考えてみてはどうだろうか。

中嶋よしふみ
ファイナンシャルプランナー
保険や住宅などを売らないFPとして、2011年にシェアーズカフェを開業。プライベートレッスン、セミナーなどのサービスを提供。各種専門家が書き手として参加するウェブメディア「シェアーズカフェ・オンライン」編集長も務める。
(撮影=岡村隆広)
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