奨学金を利用することは子どもに教育費を負担させることととらえがちだが、それだけでは認識不足だ。「親が負担するか、子が負担するか」というような“人”ではなく、「大学に在学する4年間で支払うか、卒業後に20年ほどかけて支払うか」というような“期間”でとらえてみてほしい。

同じ金額ならゆっくり時間をかけて支払ったほうが、資金繰りは楽になる。しかも奨学金に対する利息は限りなくゼロに近い。日本学生支援機構の貸与型奨学金の場合、奨学金の貸与修了月の利率が適用されるが、19年8月の金利は利率固定方式(固定金利)で年0.015%、利率見直し方式(変動金利)で年0.002%だ。もし、子どもが大学を卒業する段階で自分自身の老後資金の積み立てのめどがたっていれば、その時点で返済の援助をしてもいい。

▼5大リスク(3)年金繰り下げ

命の長さと金、天秤にかけて見誤る

老後不安とは何か――。改めて考えてみると、働けなくなる不安、給料がなくなる不安にほかならない。70歳、75歳まで働くことができれば、不安の前提をひっくり返すことができる。

定年後も働いて収入を確保できれば、年金を繰り下げ受給して、将来の年金額を増やすことも行いやすい。厚生年金も国民年金も最大5年間の繰り下げ受給が可能だ。それにより年金額を最大42%アップできる(図4)。

冒頭で述べた「老後資金2000万円不足問題」の発端となった金融庁の報告書では、夫65歳以上・妻60歳以上の無職2人世帯(モデル世帯)の収支は、収入が約21万円であるのに対し、実支出が約26万円かかり、毎月約5万円の赤字となるとしている。生涯(老後30年)この状態が続くとして不足分を補うには「約2000万円の貯蓄」が必要だとした。

このモデル世帯の年金額は約19万円であったが、仮に繰り下げ受給で受取額が42%アップすれば約8万円の増額になる。不足分がほぼ賄える計算だ。

さらに、年金の繰り下げ受給は現在、最大5年だが10年まで延長できるようにする案も出ている。現在の仕組みがそのまま適用されると考えるなら、繰り下げ1年ごとに8.4%の増額になるから、10年の繰り下げでは受給額が84%アップとほぼ2倍になる計算だ。受給開始までの生活費は働くなどして確保しなければならないが、できるだけ長く働いて年金受給を繰り下げすることが、最も安心な対策となるだろう。

年金の繰り下げ受給の話をすると「何歳まで生きれば得するのか」を気にする人がいる。たとえば、70歳から受給開始して年金額が増えても結果的に75歳で亡くなってしまえば、「65歳から受給したほうが得ではないか」との議論だ。

計算上はそのとおりだが、年金の最大のメリットは生涯受け取れること。年金はもともと貯金的なものではなく、長生きリスクへの保険だ。どんなに長生きしても受け取れるのだから損得だけの問題ではない。