横浜市内の運動会では、崎陽軒の「シウマイ弁当」がよく並ぶ。地元の「ソウルフード」ともいえる存在だからだ。1世帯あたりのしゅうまいへの出費は、全国平均の2倍。なぜそこまで愛されているのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏が取材した——。
撮影=石橋 素幸
崎陽軒の「昔ながらのシウマイ」(左)と「シウマイ弁当」(右)

全国マーケットを捨てて守った「価値」

崎陽軒はシウマイとシウマイ弁当で知られる横浜の食品企業だ。年間の売り上げは245億円(2018年度)、従業員は1962名(2018年3月末)。

ただ、こうした数字よりも、崎陽軒の実力はみんなに愛されている味にある。崎陽軒という文字を見ると、食べたことのある人は豚ひき肉とホタテの入った、冷めてもおいしいシウマイの味をつい思い出してしまうだろう。

そんな崎陽軒の経営理念は次の3つである。

1. 崎陽軒はナショナルブランドをめざしません。真に優れた「ローカルブランド」をめざします。

2. 崎陽軒が作るものはシウマイや料理だけではありません。常に挑戦し「名物名所」を創りつづけます。

3. 崎陽軒は皆さまのお腹だけを満たしません。食をとおして「心」も満たすことをめざします。

同社は一時期、各地のスーパーでシウマイを売っていたことがある。しかし、「真に優れたローカルブランドになる」ために全国マーケットから撤退した。10億円ほど売り上げていた全国マーケットを捨ててまでローカルブランドの価値を守ったのである。