娘の志穂さん(弘前コーヒースクール常務。白神焙煎舎社長)によれば、自宅での成田さんは「あまり語らず、本を読んでいることが多い」という。かつては喫茶店主の傍ら、青森県紙の「東奥日報」と契約しルポライターも兼任。コーヒーの開発だけではなく、北海道の宗谷岬には私費を投じて藩士を悼むための「旬難津軽藩兵詰合記念碑」という、コーヒー豆をかたどった碑も建立した。

また、秋田県と青森県にまたがる世界遺産・白神山地のある西目屋村には、体験施設を兼ねた焙煎コーヒーの店「白神焙煎舎」(前述)を開業。ここではリンゴの剪定せんてい枝を使った炭で、コーヒーの炭焼き焙煎体験(4000円。生豆500グラム付き)もできる。

興味を持つと、とことん突き詰める“文人経営者”といえよう。

撮影=プレジデントオンライン編集部
成田専蔵社長。小屋ではリンゴの剪定枝を使ってコーヒーの炭焼き焙煎を行っている。

スターバックスも出店した「文化財の喫茶店」

太平洋戦争で空襲を免れた弘前市には、昔ながらの建物も点在する。

2015年4月には「スターバックス弘前公園前店」が開業した。建物は1917(大正6)年に陸軍第八師団長の官舎として建てられた木造建築で、歴代師団長が太平洋戦争時まで入居。敗戦後は米軍接収の後、日本に戻され、以後、弘前市長公舎として使われた歴史を持つ。

スターバックスは、市の要請もあり、建築自体をそのまま残し、内部の改装も最小限にとどめた。国内に1458店(※3)を持つ同社でも、25店(※4)しかない「リージョナル ランドマーク ストア」(地域の景観に合った店)のひとつだ。弘前公園前店のくわしい内容は、後日紹介したい。

弘前コーヒースクールも対抗するように、翌2016年6月19日に「弘大カフェ」を開業。

こちらは国登録有形文化財の「旧制弘前高等学校外国人教師館」(1925年建築、木造2階建て洋館)で2004年に現在地に移築復元され、2015年度まで資料館として公開されていた。

「コンビニで100円コーヒーが簡単に飲める時代に、心を込めて淹れる味を、コーヒーを飲み始める大学生をはじめ、近隣住民の方にも改めて知っていただきたく出店しました」と成田さんは話す。大学内の出店らしく学生割引もある。大手チェーン店と個人店が文化財の建物に喫茶店を出すのも、ある意味で弘前らしい。

(※3)2019年6月末現在
(※4)同年9月末現在