動物を狩りしていた石器時代には、獲物を何頭つかまえたか、その数を石を使って記録していたと考えられている。獲物1頭につき石を1つ置くという具合である。そうした数の記録で人類最古のものと言われているのは、アフリカのスワジランドの洞窟で発見された約3万5000年前のヒヒの骨に刻まれたものだ。

数は概念・イデアの存在だということ

目に見える獲物や石を数十万年眺め続けてようやく、それらの背後にある数という「考え方(アイデア)」に到達した。これが数は概念・イデアの存在だということである。そして、見えない数を目に見える「数の象徴・形」にしたものが数字であるが、数が概念として認識される以前に数字の発明が世界中でなされていく。

現在、世界中で広く使われている「0123456789」というアラビア数字は、もともとインド人が考えたインド数字が8世紀頃にアラビアに伝わり、その後ヨーロッパに伝わって発展したもの。ローマ数字や漢数字に対して、アラビア数字は計算に圧倒的に有利であり、「アラビア算用数字」と呼ばれる所以だ。15世紀にグーテンベルクの活版印刷の発明でアラビア数字は一気に普及した。

ちなみに、「計算する」「計算機」という英語はそれぞれ「calculate」「calculator」で、「石」を意味するラテン語の「calculus」に由来している。計算の大本が、石器時代の石とつながっているというのは興味深いではないか。

数と数字の違い――。それは目に見えない存在が数で、目に見える存在が数字だということ。だから「数字を足し算する」は誤り。数字を足すことはできず、「数を足す」が正しい。

もちろん、数と数字の違いを知らないことが、日常生活で深刻な問題を引き起こすことはない。「数字」でほとんどの言いたいことは通じる。しかし、数と数字はまったく違うものであり、数学の世界は数字ではなく数というイデアの世界であることを知ることは極めて重要である。

(構成=田之上 信)
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