「炎上覚悟での実施が問題」というロジック

筆者が関係者に事情を聞いた限りでは、この問題は政府や権力による検閲だ、あるいは表現の自由の問題だ、というよりは、あいちトリエンナーレが開催される前に東浩紀さんとの対談動画の中で津田大介さんが芸術監督としてキュレーションや展示物の狙いを語り、そこで本件展示が世間的に物議を醸し炎上することが分かっていて展示を実施したことから、津田大介さんの意図や行為は問題である、というロジックです。

燃えるのがわかっていて、いざ燃えてみたら対策が不十分で収拾がつかなくなって展示自体の中止に追い込まれた、という部分は明らかに芸術監督としての津田大介さんの責任であり、そのようなディレクションを行っていた今回のあいちトリエンナーレの開催に対して文化庁は7800万円の補助金の交付を行うべきではない、と判断したにせよ、ちょっと乱暴に見えます。これはもう単なる「津田大介、怒りの芸術監督辞任」のような責任論ではなく、補助金交付されそびれた愛知県や名古屋市、さらには美術業界、キュレーター全員が、津田大介さんの個人的な思いで実施した企画展の後始末に対して敵に回ってしまっていることを意味します。

そして、先に個人のブログのエントリーでも書きましたが、検証委員会の座長は美術館方面の重鎮である国立国際美術館長・山梨俊夫さんであり、また芸術監督を選考した審査員の建畠哲さんは全国美術館会議の会長です。結果的に津田大介さんの責任を厳しく問う報告書を出したという点で、「津田大介さんをかばわなかった」という意味にも取れます。そればかりか、検証委員会の結論をもって、いわゆる日本の美術界方面に延焼しないよう、一丸となって騒動にふたをして鎮火させたとも見えます。検証委員会もすべての委員が同意見ではなかったようですが、この検証委員会の中間報告で問題が大きく動いたのは確かです。

何度も書きますが、私は津田大介さんはそんな悪意も野心もないと思うんですけどね。

任命者や推薦者の責任問題はどこにいったのか

仮に津田さんの意向がどうであれ、美術方面の経験のない津田大介さんを芸術監督に選任した愛知県知事の大村秀章さんや、推薦した建畠晢さんらにも等しく任命責任が問われなければならないのではないか、あるいは、「表現の不自由展・その後」を展示するにあたり適切にブレーキをかけなかった運営委員会にもとがはあるんじゃないのと思います。

大村知事は、津田大介さんを厳重注意とし、速やかに企画展を再開すべきだとしていますが、津田大介さんを芸術監督に任命した責任については言及していません。また津田大介さんも展示再開の条件として掲げていた「脅迫メールの発信者の特定」などはまったく考慮されないままに話が進んでいます。まるで、誰ももう津田大介さんの話になど耳を貸さないかのようです。