最終所有者の議決権行使は投資決定者である機関投資家に委託されている。委託している最終所有者の多くは、議決権を適切に行使するだけの知識と情報を持っていない。最終所有者はそもそもどこに投資されているかさえ知らないのが普通で、この場合に最終所有者の意見を尊重することが彼ら自身の利益になるかどうかは疑問である。だからといって、受託者である機関投資家は、最終所有者の意向を考えなくてよいとは言い切れない。少なくとも最終所有者が納得できるように議決権行使は行われるべきだろう。この場合にも新しい問題が発生する。

最終所有者の納得性を高めるために利用されるのは、議決権行使助言会社だが、問題は、この会社の助言が適切であるかどうかである。この会社の助言が不適切ではないかと感じるのは、監査役の選任に関してである。

最近、銀行出身の監査役の選任に否の投票をする投資家が増えている。助言会社が銀行出身の監査役は否というルールを設定しているからである。銀行と株主の間には利害相反があるからという形式論をもとにしたルールである。しかし、日本の銀行が会社統治に果たしてきた役割を考えれば、銀行出身の監査役を不適切だと言い切ることはできないであろう。それにもかかわらず、このルールに従って議決権が行使されている。議決権を行使する側からすれば、プロの助言に従ったまで、ということになる。それは本当に責任ある受託者の行動といえるのだろうか。助言会社は、さらに深刻な問題をも生み出している。

助言会社が一定の単純なルールに沿って助言しているということを知った会社側は、株主の支持を得るために、助言会社の単純なルールに合わせて会社統治を行ってしまう。

しかし冷静に考えれば、助言会社は株主ではなく、誤った助言による被害を受ける存在ではない。助言会社の助言に沿って議決権を行使することは、手続き的な合理性に従っているという弁解にはなっても、それが株主の利益に適っていると言うことができるのだろうか。

これ以外にも考えなければならない問題はある。たとえば指数投資をしている投資家は、指数に採用されている企業の議決権を行使すべきかどうかも冷静に議論されなければならない問題だ。このように考えてみれば、株主の議決権行使の問題はじつに難解な問題であり、当然の権利などとは言い切れないのである。

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