福島の原発事故を巡り、上司と部下の対立が頻発している政界。組織の成り立ちや、日本と欧米の考え方の相違などを用いて、上下対立の問題を紐解く。

あらゆる組織に隠れている対立の種

福島の原発事故への対応過程で上司と部下の意見対立が顕在化した。最初は原子炉冷却のために海水注入を続けるべきかどうかを巡る現場と総理大臣官邸との対立であった。この件で、官邸が命令権を持っていたのかどうかは不明のままである。官邸の中止指示にもかかわらず、現場は海水注入を続けたという対立があったことが後に明らかになった。

もう一つは、原子力発電を今後も継続すべきかどうかを巡る総理大臣と経済産業大臣との対立である。この対立はまだ続いている。今後も原発を利用し続けるのかどうかについての政府方針は、依然として明確ではない。

上司と部下との意見が対立するという事態は例外的な異常事態と見られがちだが、組織では起こる可能性がある。それどころか、どのよう組織でも常に起こりうる問題だと考えたほうがよい。このような対立が起こりやすいのは、あらゆる組織に上下対立の種が隠されているからである。

組織は上司が部下に命令をすることによって効果的な協働をするための仕組みであるが、命令をする上司と部下との間に対立が起こる原因として次の3つがある。そのうち、最初の2つは、組織の成り立ちと深くかかわっている。

第1は、組織の階層ごとに意思決定の良し悪しを判断する基準が異なるという原因である。よく使われる言葉を使えば、部分の最適解と全体の最適解とが違うという理由である。こうなるのは、組織内の分業によって目的も異なってくるからである。

第2は、組織階層のレベルが異なれば、入ってくる情報が違うという原因である。現場に近いところでは、現場についてのより詳しい情報が継続的に入ってくる。

そのような情報に日常的に接触しておれば現場についてのより深い知識も蓄積される。このような違いは組織の中の専門化にともなうものである。組織の基本である専門化が起これば、下の階層のほうがより専門的な知識を持っていると考えることができる。狭い分野について上司は部下ほど情報を持っていないのが普通である。

上司と部下との対立が起こる3つの原因
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上司と部下との対立が起こる3つの原因

この2つの原因を考えると、目的が複数あり、因果関係についての知識が不確実なときには、上下の対立は起こりやすいと考えることができる。今回の原発事故への対応はまさにそのような事態であった。最初の例は、因果関係についての知識が不確実な状況で起こった対立である。後者は複数の目的からくる対立である。

上下対立が起こる第3の理由は、部下にその正当性が認められないと上司の命令は受け入れられないという性質である。経営学には、権限についての2種類の考え方がある。

一つは公式的権限説。上司の命令権限は法的に与えられたものだとする考え方である。部下は、この命令に従う雇用契約上の義務があるという見方である。

もう一つは、権限受容説。上司の命令が正当であるかどうか従うべきかどうかを最終的に決めるのは部下の判断だという考え方である。正当性の根拠となるのは、上司にたいする尊敬、上司の専門知識や判断力、上司の高潔さなどである。

権限受容説は地位の権限だけでは部下を動かせないということをいっている。上司は権限受容説をもとに自らの正当性を高める努力をすべきである。上司が公式的権限説に立っている場合には、部下との対立が起こりやすい。命令を正当なものとするための努力を上司が行わないからである。