一般株主の責任とは何か
株価の低下が起こりうるという意味で株主はリスクを負担している。しかし、リスクを負担しているのは俊敏ではない株主あるいは、会社にコミットしている長期保有の株主だということになる。上場会社の一般株主の中にもそのような株主がいるという点を見れば、一般株主もリスクを負担している。その意味で一般株主が議決権を行使するのは正当だ。
一般株主の議決権行使に関して考えるべき本質的問題は、議決権行使に伴う責任という問題だ。間違った議決権行使が株主自身の損失をもたらすだけであれば、それは自己責任である。しかし、間違った議決権行使が他の利害関係集団に損失をもたらす場合には、株主の責任が問われなければならない。一般株主の多くは、会社の提案を評価し、それが株主全体や、さらには他のステークホールダーの利益とどうつながるかを判断するに十分な知識を持っているとは限らない。この場合に一般株主が議決権を行使することが株主全体の利益につながるかどうかは慎重に考えられるべきだ。しかし一般株主の議決権は、その議決権数がきわめて小さいので、その議決権行使が経営政策に大きな影響を及ぼすことはない。
より複雑な問題をはらんでいるのは、間接所有株式の議決権行使である。投資信託や年金信託などを媒介とした間接投資がこれにあたる。このような間接投資の最終保有者は、年金の加入者か、投資信託の購入者である。直接保有者は、機関投資家である。機関投資家は、日本でもアメリカでも、伝統的にサイレントパートナーと呼ばれ、積極的な議決権行使は差し控え、経営陣を支持する方向で議決権を行使するという慣行があったが、最近は、自らの意思で議決権を積極的に行使する機関投資家が増えているようである。この方向へ流れを変える役割を演じたのは、米国の公的年金基金である。
しかし、機関投資家が積極的な議決権行使を行うようになるとともに、新たな問題が発生し始めた。しかも機関投資家の所有比率はずいぶん高くなっていて、その問題がもたらす影響は大きくなっている。その新しい問題とは、機関投資家の議決権行使が、最終所有者の意向に沿うべきかどうかという問題である。