「プレミアム」銘柄と「スタンダード」銘柄に切り分ける

1つ目の問題については、既存の3市場間で異なる上場基準などを一本化し、重複のない市場構成に改編することが求められます。2つ目の問題については、今ある東証1部の企業を、国際機関投資家の投資対象となりうる要件を満たす「プレミアム」銘柄と「スタンダード」銘柄に切り分ける案があります。そのラインは時価総額500億円とも250億円ともいわれており、もし250億円で切った場合は、東証1部企業の約35%がスタンダード銘柄に格下げされることになります。

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東証の新しい区分けはどうなるのか。まだ議論は続く。

東証1部銘柄を2つに分けるといった変更を行うと、年金や投信、ETFなどのインデックス運用に混乱をもたらす可能性があります。厚生年金や国民年金などを運用する年金ファンド・GPIFは、インデックス運用が7~8割を占め、企業年金でもインデックス運用が主流となっています。代表的なインデックスであるTOPIXに連動する運用をしているファンドは、東証1部上場銘柄すべてに投資し、株式を保有しています。TOPIXは運用パフォーマンスを測る際のベンチマークとして年金や投信、ETFなどに幅広く活用されてきました。その結果、2018年3月で推定したTOPIX関係のインデックス運用資産残高は約50兆円あります。これは東証1部全体の時価総額の約9%に相当します。

もっとも極端なシナリオは、東証が1部銘柄をプレミアムとスタンダードに分け、インデックス運用の対象が東証1部全体からプレミアム銘柄にシフトするケースです。時価総額250億円未満の約750銘柄について、インデックス・ファンドがその保有株式をすべて市場に売却する場合、売却株数の規模は、これらの銘柄の2018年の平均日次出来高の約48日分に相当します。大量の売り注文を浴びせられることになるので、株価に相当の下落インパクトが発生すると予想されます。はずされる企業からみれば、プレミアム銘柄の要件を満たさないというレッテルを貼られるだけでなく、株価の暴落で既存株主に大損害を与えるというダブルパンチとなります。具体的な再編案が決定されるまでは、新たに東証1部に上場しようとする企業は、二の足を踏むのではないでしょうか。

これほど甚大な影響が発生する可能性があるのは、わが国の資産運用のベンチマークに関する特殊な状況が災いしているといえます。筆者が知る範囲では、TOPIXのように、取引所が規定する条件を満たした銘柄すべてをベンチマークにしている先進国はありません。米国のベンチマークのひとつであるS&P500など、取引所以外の機関が銘柄を選んでインデックスを構成しているようなケースが通常です。また、最近ではESG投資のように、環境問題に配慮した会社の中から優れた会社を選んでインデックスをつくり、投資先を選別するといった動きもあります。資産家は、今こそ、TOPIX以外の運用評価軸を再検討し、それに沿って投資していくという流れに変えるチャンスではないでしょうか。そうすれば、東証がどんな制度改革をしようとも、運用ファンドに大きな影響が出る事態を回避することができます。