ほんとうに暮らしは厳しくなっているか?
7月21日が投票日の参議院議員選挙では、安倍政権の経済政策アベノミクスの是非も大きな争点となっている。与党が6年にわたる経済の好調を強調しているのに対し、野党は「国民の暮らしは良くなっていない」と批判を強めている。
私が定期購読している東京新聞の7月11日の社説は「アベノミクス 暮らしは厳しくなった」と題して野党の見方を代弁するかのように次のように述べている。
<5月の毎月勤労統計では1人当たりの現金給与総額が5カ月連続のマイナス。街角の景気実感を示す景気ウオッチャー調査(6月)も2カ月連続の悪化だった。さらに2018年の国民生活基礎調査によると、一世帯あたりの平均所得額が4年ぶりに前年割れとなり、「生活が苦しい」と答えた世帯も約57%と高水準である。つまり政府や日銀がいくら回復基調を唱え株価や為替が安定していても、暮らしの現実は確実に厳しくなっている>
指摘されている指標の動きは本当に暮らしの厳しさを反映しているのだろうか。
賃金が低下していても、失業者が減り、就職率が上昇して、賃金を得られる者が増えていれば、トータルには暮らしは悪くなっていないかもしれない。所得や消費が減少していても、税・保険料負担軽減の対象者が増えていれば、あるいは一般の家庭が不要な消費を減らしているだけであれば、生活が苦しくなっていない可能性がある。賃金、所得、消費に関する客観的な指標だけで生活が悪化していると決めつけるわけにはいかないのである。
「統計探偵」を自負する筆者としては、「暮らしが厳しくなっている」と思っている国民が本当に増えているのか、それとも実は減っているのかを確かめる義務があるように感じる。
これは参議院選の与野党いずれかに味方したいからではなく、単に事実を見極めたいからだ。今回はこの「捜査」の結果を報告しよう。
「国民の暮らし」は客観指標だけでなく、主観指標から判断できる。それを確かめる必要がある。国民の暮らしに関する意識調査は、政府、民間で複数、行われている。前述の社説が引いている「国民生活基礎調査」もそのひとつである。まず、この調査の結果を確認してみよう。
「生活が苦しい」人は増えているか?
厚生労働省の「国民生活基礎調査」の所得票では、毎年、生活意識について世帯主に聞いている。2018年の結果は「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」への回答が、それぞれ、24.4%、33.3%、38.1%、3.7%、0.6%となっており、前2者の「苦しい」の合計が57.7%である。上の社説が引いているのがこの数字である(図表1参照)。